NOVEL

【錦の女】vol.5~覚醒~

諸々の事を考えれば、良い夫だったと思う。

それを、当たり前だと勘違いした愚か者は玲子の方だった。

 

「お母さん大丈夫?ラウンジには出勤するの?」

早めの夕食を食べながら奈緒が玲子の様子をうかがう。

できれば、今日一日一緒にいいて欲しいと思っているのだろう。

 

それでも…。

 

「ラウンジは休めないのよ。当日欠勤すると罰金だから。ごめんね…」

 

それだけではない。

昨日の今日で休んだら、まさにそれはレイラへの敗北を認めたようになる。

 

玲子にとっての社会的居場所は【RedROSE】のリナしかない。

それを奪われてしまったら、幼い裕也と路頭に迷い…、奈緒を奪われてしまう。

 

「ねぇ、お母さん。あんまりさぁ、無理しすぎないでね」

 

奈緒はそう告げると紙袋をテーブルの上に置いた。

「これ、学校の園芸部の人に貰ったの」

袋の中から数本の黄色いパンジーを出した。

「花言葉は『つつましい幸せ』

あの置きっぱなしの花瓶に飾ろうと思って。別に花屋で買うこともないから、ちゃんと前みたいに花を飾ろう。」

 

玲子にとって一番きれいな花は、奈緒の笑顔だ。

この子がいれば大丈夫と思える気持ちと、自分のもとでこの子は本当に幸せなのか?という真逆の思考が常にシーソーのように動いている。

 

「ありがとう。奈緒!」

玲子は奈緒の手をぎゅっと握り締めた。

奈緒はその手に裕也の手に重ねる。

 

3人で生きて行こうと誓うように。

 

玲子がいつものように、少し早めにラウンジ【RedROSE】に出勤すると、何故か既にレイラがカウンターに座っていた。

川内君の手伝いをするわけでもなく、ただ座っている。

ママはまだ来ていないようだった。

 

「おはようございます。リナさん」

「おはよう」