左右対象にバランスよく引きあがった昭人の口元が、とても眩しかった。
健全な時間に会い、健全なビジネスの会話をして別れる。
『じゃあ、また…』
昭人はそういいながら、仕事があるからとタクシーに乗った。昭人を見送った後で、莉子は色んな思考を巡らせた。
今日、二人で会っていたことを、小枝子は知っているのか?
彼から電話をかけてきたことを知っているのか?
あくまでも、ビジネスとして昭人は莉子に時間をとったのか?
それでもいい。
それでも、彼の個人LINEをゲットできただけでも良かったと思う。070…の電話番号は、プライベート用に使っているようだった。
iPadや仕事の為に開いていたiPhoneとは別の、明らか色んな利用用途に使わないシンプルなスマホが、070…。
名刺には、090…で記載されている。
070…のLINEを莉子に教えてくれた。
チラッと見た限りだが、トーク相手は、ほとんど男性のようだった。昭人も車好きなのだろう。車をアイコンにしている友達が多く、昭人もあの駐車場に停めてあった外車がアイコンだった。
そういえば、妻である小枝子のLINEも見当たらなかったけど…。
莉子は癖で、相手の素性調査のようにLINE画面を瞬時にチェックしてしまう。LINEのトーク画面を見れば、大体の友人関係やプライベートも解る。
明らか、友人と映っているものやイラスト多いのは女性だし、グループLINEが多い人も広く浅くタイプだ。
その点でも昭人は違った。
男の交友関係が多く、グループではないLINEしか見えなかった。
プライベートの個人電話に滑り込んだとしたら、大当たりの一日だと思った。
そして、莉子はわざと寝る前23時に、昭人にLINEを送った。
『本日はお忙しい中、お時間をいただきまして有難うございました。もしよろしければ、またお話をお伺いしたいです。』
当たり障りのない連絡。
ビジネスシーンには向かない女性だというレッテルを貼られても、全く不快ではなかった。
これが違う男なら、食い殺そうと画策したかもしれない、莉子の琴線ギリギリの攻防戦だった。
しかし、それも、今思い返してみればの話だ。
あの時は、微塵も怒りを感じなかった。
『弱い女性』と言われても、素直に受け入れられた。
今、昭人は小枝子と一緒に何をしているのだろうか?
あの下品な口が、昭人の綺麗な口を穢しているのかと想像するだけで、虫唾が走る。