「とりあえず、二人の入籍祝いを…。いいかなぁ?」
小枝子のくだらないじゃれ合い芝居に嫌気がさし、それを顔に出さないように莉子はカバンの中に入れてあった、プレゼントを渡した。
「たいした物ではないけど」
莉子は趣味で、パワーストーンのアクセサリーを作る。ペアで天使の羽になるようにデザインしたキーフォルダーを、洋風な木箱の中に入れてラッピングして持ってきていた。
小枝子はまた異常な喜び方をして「開けてもいい?」と訪ねてきた。
「もちろん。」
あくまでも小枝子に向ける視線。
でも、その横に映りこむ昭人の動作を観察しながら、莉子の表情は親友を思う優しい友人になっていたはずだ。
箱の中には、ラインストーンをあしらえたカードが入っていて、『入籍おめでとう』と書いておいた。莉子はペン字の資格も取っていて、字には自信があった。
「綺麗な文字を書かれるんですね。」
昭人がすかさず莉子に声をかけてくる。
チャンス到来だ。
男の為にあしらえたデコレーションでも、天使の羽でもない。本当に見せたいのは、莉子の文字だった。そして、この箱を渡すタイミングだった。
「有難うございます。」
莉子は唇を意識して、言葉を連ねる。
大学時代には意識していなかった事だった。相手の口元を見ているだけではない、相手にも自分の唇を魅せる技術。
少し息を漏らしてから、唇を閉じる。
―これが、キスの合図…―
小枝子は見ていない。
プレゼントに夢中になって、こちらを意識はしていない。
このわずかなタイミングを莉子は見逃さないし、逃さない。