NOVEL

悪女 ~ Movement of the mouth ~ vol.6

 

「とりあえず、二人の入籍祝いを…。いいかなぁ?」

 

小枝子のくだらないじゃれ合い芝居に嫌気がさし、それを顔に出さないように莉子はカバンの中に入れてあった、プレゼントを渡した。

 

「たいした物ではないけど」

 

莉子は趣味で、パワーストーンのアクセサリーを作る。ペアで天使の羽になるようにデザインしたキーフォルダーを、洋風な木箱の中に入れてラッピングして持ってきていた。

小枝子はまた異常な喜び方をして「開けてもいい?」と訪ねてきた。

 

「もちろん。」

 

あくまでも小枝子に向ける視線。

でも、その横に映りこむ昭人の動作を観察しながら、莉子の表情は親友を思う優しい友人になっていたはずだ。

 

箱の中には、ラインストーンをあしらえたカードが入っていて、『入籍おめでとう』と書いておいた。莉子はペン字の資格も取っていて、字には自信があった。

 

「綺麗な文字を書かれるんですね。」

 

昭人がすかさず莉子に声をかけてくる。

チャンス到来だ。

男の為にあしらえたデコレーションでも、天使の羽でもない。本当に見せたいのは、莉子の文字だった。そして、この箱を渡すタイミングだった。

 

「有難うございます。」

 

莉子は唇を意識して、言葉を連ねる。

大学時代には意識していなかった事だった。相手の口元を見ているだけではない、相手にも自分の唇を魅せる技術。

 

少し息を漏らしてから、唇を閉じる。

 

―これが、キスの合図…―

 

小枝子は見ていない。

プレゼントに夢中になって、こちらを意識はしていない。

このわずかなタイミングを莉子は見逃さないし、逃さない。