NOVEL

マザーズカースト vol.6~センター争い~

エレベーターでの一件を境に恵美梨さんはすっかりママ友の集まりに顔を出さなくなり、ママ達も特にそれを気にする様子もなく時間が過ぎていった。

 


前回:マザーズカースト vol.5~タワマン内ヒエラルキー~

はじめから読む:マザーズカースト vol.1~新たな土地へ~

 

-オーディションでの出来事-

 

季節も少し肌寒く感じるようになってきた。

街路樹も紅葉が色づき始めて、駅前のモールには秋のバーゲンやハロウィンイベントの広告が並ぶようになった。

 

そしてママ友同士で交わされる会話では、次第にハロウィンの発表会の話題を話すことが増えていった。

「発表会用の新しいダンスシューズを注文したの」

「家で毎晩動画を見ながら練習させているの」

「しっかり撮れるようにパパが今年もカメラを新調したの」

どこの家族も発表会が近づくにつれて準備に本腰を入れている様子だ。

 

そんな中、レッスン後に直人先生から親子に向けて発表会のオーディションについて説明があった。

「次の金曜日のレッスンはポジションを決めるオーディションになります。踊りの上手い下手だけでなく、11人の体全体を活かした表現力を大切にしたいと思っています。なのでお母様方はどうかスパルタになりすぎず、お子さんの性格に合わせて伸び伸びと表現できるようなサポートをしてあげてください」

 

 

子供達はオーディションという響きにワクワクしている様子の一方、周りのママ達の表情は真剣そのものだった。

真理子さんから聞いた去年の発表会でのポジション争いを思い出すと、健太には伸び伸びと踊りきって欲しいものの、私はなんだか複雑な気持ちだった。

 

周りのみんなが頑張っているのを子供ながらに感じたのか、健太は自宅で夜ご飯を食べ終えると

「ねぇねぇ。直人先生のダンス見せて!」

と毎日踊りを練習するようになった。

何より今まで恥ずかしがり屋だった健太が、自分からパパを呼び出して

「ちゃんと観ててね〜」

と言って率先してお披露目するようになったことに、雄一郎と私は成長を感じつつとても驚いていた。

 

そしてオーディション当日。

直人先生やその他のレッスンの講師が並び、1人ずつ踊りを披露していく。

見学席にはママ友達や子供達もいて周りにこれだけの人がいる中で、1人で踊るというのは幼稚園児の子供にはとても大きなプレッシャーだと感じた。

 

緊張でママから離れず泣き出してしまう子もいる中、健太の順番が回ってきた。

健太は少し緊張している様子はあるものの

「お家でたくさん練習したもんね!楽しく踊れたらそれだけで100点だよ!」

と声をかけると、ワクワクした表情を見せながら踊りを披露した。

ダンスを始める前までは恥ずかしがり屋だった健太が、こんなに沢山の人の前で堂々と踊りを披露できるようになるなんて。

私は感動で目元が潤んだ。