NOVEL

ルピナス―芽吹く街角で 第一章 vol.5~私は、ここにいたくない...。この世は全てお金と思っていた令嬢が下した最後の決断とは?~

LINEでノアさんに待ち合わせ場所を送った。

今日で彼との契約も終わり、恋人ごっこも終わり。最高に映える彼氏とも完全終了。

既読になったのできっと来るだろうって思う。あとは約束通り、お見合い場所から二人で逃げ出したら終わり。父にも恥をかけられるだろう。あとのことはもう、どうでも良かった。

 


前回:ルピナス―芽吹く街角で 第一章 vol.4~金と欲で飾られた万丈家。がんじがらめの令嬢は必死にもがく。そこに手を差し伸べたのは...?~

はじめから読む:ルピナス―芽吹く街角で 第一章 vol.1~世間知らずの令嬢インフルエンサー、500万フォロワー女子の悩みとは?~

 

 

あと一時間ほどで出発の時間だ。何度も“早く着替えて出てこい”という父の声が聞こえてくる。今日のために用意された京都から取り寄せた振袖。紹介された美容師に私は髪をカールさせられ着物を手際良く着付けられていく。

「とてもお綺麗ですよ、お人形さんみたい」

そして私は待ち構えていた両親に引きずられる様に車に乗せられる。家の窓から在宅していた弟がこちらをじっとみて少し笑う顔が見える。その後、さっとカーテンが引かれた。

 

 

約束のホテルに着いた時、私のスマホが鳴った。

大学からだった。私は待ち合わせに現れていた相手たちに了解を取り、電話に出た。

 

 

すると焦ったような声が聞こえる。落ち着いて聞いてみるとデザイン科講師の大学教授の声がした。

「万丈君!君の応募したらしいカーデザインが審査員優秀賞を取ったぞ!」

私が受賞したらしい賞は、それは一般票から投じられた最優秀賞と同じような扱いらしく、本人が希望すれば海外への留学も可能だという。

呆然とする私。それは親の名前ではなく忖度なしで自分が勝ち取った賞だった。

電話を切った私。ガラスに映り込んだ私は着飾った人形のような格好だった。

現実は何も変わっていない、後ろには穏やかそうに会話を楽しんでいる両親と私が今日会う男性の両親が立っていた。

 

「茉莉花、終わったのか。相手を待たせるな、行くぞ」

有無を言わさず腕を取って引っ張られる、約束した予定よりも早い。

混乱した私はいつの間にか、立派な和室で正座して座らされていた。

目の前には真面目そうな男性が座っている。こちらを見つめているが感情がまるで見えない。

”本当に茉莉花さんってお綺麗ね”

”大学では何を専門に取っていらっしゃるの?”

そんな会話を受け流しつつ、私は頭の中を整理させていた。

 

『どんなに望んでも叶えられないことはある。でも、それを打ち壊せるのはお前しかいない』

 

私は、ここにいたくない。

その瞬間、スマホを取り出すと瞬時に自撮りをした。突然のフラッシュに怯む両者とお見合い相手。

私が撮った写真はひどく曖昧な笑みを浮かべていた。

そしてインスタに加工なしで、何も明記せずそのまま上げた。

 

「突然何をしているんだ?え?茉莉花?」

父の声は低い、しかし私は言葉を返した。

「写真を撮ってインスタに上げたんです」

そしてこう続けた。

「これは私の人生です。お父様、私は結婚などしません。今日はお断りしようと思ってやって参りました」

私は深々と相手方に頭を下げた。

「申し訳ございません。私には両親が決めた人と結婚するより、もっと大切なことがあります。それは進めていきたい自分の、夢です」

跡取りでもない私の夢なんて望んではいけなかった。求めてもいけないという、幼い頃からの暗黙の了解だった。

 

世の中、お金でなんでも買える。富も名誉もフォロワーもインフルエンサーの座も。