NOVEL

マザーズカースト vol.5~マンション内ヒエラルキー~

ベビーシャワーでの出来事は私の心の中にモヤモヤっとした気持ちを残した。

でも、幼稚園がみんなと一緒でダンススクールにもお友達と楽しそうに通う健気な健太の姿を見ているうちに(ママ友達とは今後もいい関係を続けないと・・・)という強い気持ちを持つようになった。

 


前回:マザーズカースト vol.4~虚飾にみちた関係~

はじめから読む:マザーズカースト vol.1~新たな土地へ~

 

 

-エレベーターカースト-

 

そして週明けの月曜日。

幼稚園の送迎バスのお見送りのためいつものママ達がエントランスに集まった。

ベビーシャワーの幹事をつとめた恵美梨さんの姿もいつも通りママ達の輪の中にあった。

 

「そろそろハロウィンのダンス発表会の衣装、みんなで考えなきゃいけないわね」

「今年も買い出しみんなで行きましょう」

「今日この後、上層階のラウンジでアイディアとか話しながらみんなで少しお茶でもしましょうか」

そんな話題で盛り上がっていた。

そしてバスに乗り込む子供達に手を振るとママ達はエレベーターホールに向かった。

 

私たちの住むマンションには1階から10階を繋ぐ下層階エレベーターと10階から18階を繋ぐ上層階エレベーターの2つのエレベーターが設置されている。

 

上層階のラウンジに向かうため、私は上層階エレベーターのボタンを押したが、続けてママ友グループ内でも口の強い小百合さんが下層階エレベーターのボタンを押した。

 

 

(あれっ?)と私が思っているうちに下層階エレベーターの扉が開くと、

「恵美梨さん!下層階エレベーター来てるわよ!」

と小百合さんが声を掛けた。

ちょうど上層階エレベーターの扉も開き、他のママ達は見て見ぬふりをするようにもう一つのエレベーターに乗り込んでいった。

恵美梨さんは空気を察して下層階エレベーターに1人で乗り込み、俯きながら扉を閉めようとしていた。

そんな恵美梨さんの目元は少し潤んでいるように私には感じられた。

 

「結衣さん!どちらに乗られるの?」

動揺して立ち尽くしたままの私に小百合さんが声をかけた。

一瞬、私だけでも恵美梨さんの乗る下層階エレベーターに乗り込む事も考えた。

(あんなに幹事を頑張っていたのに、お花の注文一つで仲間外れなんて可哀想・・・)

お手伝いする中で、近くで恵美梨さんの努力を見ていただけに、私には心苦しく感じられた。

でもその一方で、これからのマンションでの暮らしや健太の事などを考えると、

(この人たちを敵に回すと今の暮らしが・・・)

という不安と、健太を守り抜かなければという気持ちが沸いてきた。

 

そして私はママ友達でいっぱいになった上層階エレベーターに乗り込んだ。

 

-真理子さんの過去-

 

ここ数日でママ友グループの洗礼を間近で感じ、私の心は完全に気疲れしていた。

マンション暮らしを始めた頃のワクワク感はすっかり消え去り、今ではマンション敷地内で誰かと会うたびに気を遣うようになっていた。

 

誰かにこのモヤモヤを話したい。

そんな気持ちを抱きながらも、マンション暮らしに憧れる私のために物件探しをしてくれた旦那の雄一郎に話すことはなんだか申し訳なく、気が引けて言い出せずにいた。

 

そんな中、下層階エレベーターに乗り込むと久しぶりに真理子さんと会うことができた。

真理子さんはエレベーター内で2人になっても以前のように話しかけてくれる様子もなく、少し気まずさを感じているようだ。

ママ友グループと連(つる)む私と真理子さんとの間にはいつしかそんな距離感が生まれてしまっていた。