NOVEL

妻のトリセツ vol.9 ~『加害者』の座談会~

「でも、主婦はこれを毎日やってるんですよね。別居中の妻に、大変だったんだな、って言いたいですよ。きっと、今更何を言ってるの、って言われるだけなんでしょうけどね」

 

黒瀬は、どこか寂しそうな顔をしていた。

黒瀬が着ている背広は上等なものだったが、よく見ればシャツもジャケットも皺だらけだった。手入れが行き届いていない。スーツや腕時計の高級さを見る限り、きっと、会社では出来る男として通ってきた、順風満帆な生活をしてきたのだろう。しかし、今は妻に逃げられた、哀れな男のように見えた。

 

――自分と何が違うのだろうか?

 

裕司はそこで、ハッとした。

 

 ***

 

座談会が終わった後の裕司は、考え込んでいた。黒瀬たちが去っていったあとの空っぽの座席を見ながら、自分は果たして悪いことをしていたのだろうか、自分は間違っていたのだろうか……と考えを続ける。

それは、裕司にとって初めての経験だった。

 

そして、加奈恵のことを考える。実家にいるであろう加奈恵は、今幸せなんだろうか。

 

加奈恵と春樹は、どうしているのだろうか、と……。

 

 

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 夫・裕司が少しだけ変わる気配を見せた、その頃。妻・加奈恵と息子・春樹は実家に身を寄せて過ごしていた。家族に待っている運命は一体・・・!?