「ね、小竹さんは今、お付き合いしている人とかいるの?」
キラキラとした坂間の瞳が、紗夜を射抜いた。それをじっと眼鏡の奥から見つめ返した。
自暴自棄の寒い夜を超えて、紗夜は男性関係を一掃した。恋人も、元カレも、セフレも、アプリ男子も全部消去して“なかった”ことにしたのだ。
「...いいえ、今は完全フリー。仕事だけ」
「そっか...俺は来週の初日が終わったらとりあえず東京に戻る気なんだ」
そう、と紗夜は答え、手を止めた。私は彼をどう思っているのかな?そう紗夜は思っていた。容姿もよく、人も愛せ思いやりもある、仕事もできるハイスペ男子。
迷う必要など何処にもない、でも...私を愛してくれるだろうか、紗夜はそうも思っていた。
「君は少し...こんなこと言うのズルいんだけど、前カノに雰囲気が似ているんだ」
「似てるからって、そんなこと言うのずるいよ」
紗夜は、綺麗に牛のフィレ肉を切り分けながら答えた。
「ほんと、ずるいんだけど...だけど小竹さんのこと見てて強い人だなって思った」
しみじみとワインを傾けながら坂間は言った。
「もし俺がもっと強くて引き止めていたら彼女はいなくならなかったのかもしれない。だけど、小竹さんは俺が引き止めなくても、自分の力だけで立てる人だと思った」
「それは、この部署にいる安武さん、三宮さんもタイプは違うけど、どこか似てるよね。どの人も強くて、どこか儚かった。」
そう坂間は告げた。