NOVEL

「Lady, Bloody Mary」~女の嫉妬~ vol.9

 

終業後、わざと夜までやっている遠方の婦人科クリニックに足取り重く向かった紗夜。目眩が収まった後、会社の同僚たちからの祝福に顔では喜び、感謝を述べつつも心はまるで砂漠のようにカラカラだった。

忍ぶように病院に入ると、消毒液の香りがした。夜も遅かったせいか、独身の同じ年ぐらいの女性がピル処方のために訪れていたようだった。

保険証とカルテを書き込むと、尿検査を行い提出する。

その後、じっと待合室で永遠のように長い時間を座ってひたすら待つ。

 

「小竹さーん、どうぞー」

 

呼ばれ、症状を伝えて触診台に座る。

 

「じゃ、少し調べますねー」

 

と下腹部を触られた。異物を差し込まれるかすかな痛みで唇を噛み締める。直診や検査が終わり、紗夜は女医に診察室に呼ばれた。

 

「結果から申しますと妊娠はしていません、疲れによる生理不順ですね」

 

とあっさり言われた。

紗夜はクリニックから出ると、はあとため息をついた。それは安堵なのか、不安なのか、絶望なのか、よく分からなかった。

空を見上げると真っ暗な空に、ひとつだけぽつりと星が光っている。こんな賑やかな街にも星が光るんだ、とぼんやり紗夜は思った。

 

翌日、オフィスに出勤すると坂間が先に来ていた。紗夜の顔を見ると、何やら資料を持ち近寄ってきた。

 

「おはよう、昨日は大丈夫だった?」

 

思わず直診された冷たい器具の感触を思い出し、身体が少し震える。

 

「ああ、うん。大丈夫。ただの疲れだって」

「そう、良かった。改めて打ち合わせが山ほど入っているんだけどいい?」

 

仕事ができる彼らしく、テキパキと紗夜がやりやすいように資料などをまとめていてくれた。2人でオフィスを出ようとした時、ちょうどリノが出社してきた。

 

「あ、三宮さん、おはようございます」

 

微笑みながら挨拶をする坂間、邪気はない。