NOVEL

「Lady, Bloody Mary」~女の嫉妬~ vol.10

 

「さみしいって顔してたから。俺もさみしい、なんか妙に俺たち似てるよな」

 

えっ!そんなことないよ!と聖奈は言おうとしたが、妙に反論できない。

そっと身体を離すと

 

「LINE教えて、そうすればバスの中からも、俺たち繋がれるじゃん」

 

聖奈の、負けだった。

わかったよ、じゃ名古屋に戻ったらきちんと自己紹介から始めようとスマホを互いに取り出した。

妙な二人の道が少しずつ、近づいた瞬間だった。

 

 

三宮リノにとっては、年明けから強運の女神が彼女に微笑むことはなかった。クリスマスまでは上手くいっていたのに、と彼女は思っていた。

CKNで勤務し始めて早2×年。リノはずっと入社当時から強気な女だった。

いつも1人ではなく、誰かを共にして気に入らない同僚や女性の悪口ばかり言って、課長の海老原の心身を早々に手中に入れると、まるで研究開発部は我が物だと言わんばかりにその権力を振りかざし始め、彼女のやることに誰も口を出せなくなっていた。

 

次第に時は過ぎ、同期や後輩は次々と婚活や社内恋愛で寿退社する中、リノはいい男は私が選ぶというまるでバブル絶頂期の考え方を変えることはなかった。そして給料だけは上がり続け、開発部内での仕事の割り振られ方は偏り続け「お局キャラ」だけが周囲に広がり続けた。

もちろんリノも言葉には出てこないが、周りの目に気づいていた。

だからこそ夜はストレスから逃げるようにホストクラブに通ったり、海老原との密会を重ねていたのだ。

 

ここ数年では休日に仮想通貨にも手を出し、少しずつ財を成していた。将来はヒモであるアオイと籍でも入れ、会社もすっぱり辞めてやり、ヨーロッパあたりで優雅な暮らしでもしようかと、密かに夢を見ていた。

しかし、春あたり。ポストにアオイ専用の合鍵が投じられていたのを見て嫌な予感がし、走るように自宅に駆け込んだ。

 

”リノへ 今まで飼ってくれてありがとう、でも君の飼い犬は新しい自由を求めて新天地へ旅立つのだ!またね!わんっ! アオイ”

 

丁寧な丸文字で書かれた文字を見て飛び上がり、リノは叫んだ。

 

「あんのやろう!」

 

飼い犬に文字通り、噛まれて逃げられたリノ。

その上、プロジェクトの代表に選出されたのは自分ではなく、自分よりも後輩の小竹紗夜だったこと。

坂間に介抱され、いつもそれからは坂間と共に行動するようになる。彼の横にいるのは私だったのに。リノのプライドは粉々に砕け散り、遂に決意をする。

 

 

春、プロジェクトを大成功させ、坂間は東京支社に戻る事になった。そして、同時に紗夜の婚約も発表される。もちろん相手は横にいる坂間であった。

既に名古屋の紗夜の両親と顔合わせは済ませ、東京に戻り坂間の両親とも顔合わせが終わり次第、良き日を見て入籍予定らしい。プロジェクトメンバー達にも是非、結婚式に来てねと2人は笑顔で告げている。

紗夜の左手薬指には大粒のダイヤモンドが飾られたエンゲージリングが輝いている。

 

少し離れて聖奈もどこかすっきりした顔で、優しげに拍手を送っていた。

だがその場に既に、リノはいなかった。

 

坂間たちが婚約報告を行う数日前のこと...。

同社、研究開発室。