NOVEL

「Lady, Bloody Mary」~女の嫉妬~ vol.10

蒼はずっと心理学を大学で学びつつ、夜職でホストをして学費を貯めていたらしい。そしてホストを辞め、太客だったリノのヒモとして密かに医学部に合格し本格的に心療内科の医者を志すようになったという。

そして先立って、国家資格を手に入れミッションコンプリート、リノからも卒業した。

ちなみに、リノはそんな事には全く気づかず「No1ホストのアオイを飼っている」ということに酔い、会社でも彼女の行動に誰も指摘もできずそのまま3年間が経過していた。

 

国家試験が落ち着いた頃に、友人の頼みで雇われでボーイズバーの店長に期間限定で入っていたみたいだ。そして心機一転、東京の新宿界隈で良い物件が見つかったのでそこで開業しようと思っているらしい。

 

「なんでそこまで、人の心に深く興味があるの?」

 

思わず聖奈が聞いてしまった。やんごとなきで今まで全て交わしてきた彼女にとってそこまで決して真っ直ぐな正当な道ではなくても、全て自分の責任で道なき道を歩く蒼に単純に興味を示していた。

 

「うーん、例えば一万人いたら人の心って一万通りあるとか思うじゃん、でも違うんだよね。一人に幾つもの感情って散りばめられて、それを探ったり研究するのがとても好きだったんだ、だからホストも大変だったけど楽しかったよ、色々な人の心が見られたから」

「リノ先輩は?」

「あー、そうか。リノと同じ会社なんだっけ?」

 

聖奈はそこでやっと、同じプロジェクトでリノと数ヶ月同じオフィスで働いたことを告げた。

 

「わー、えらいタイミングで会っちゃったんだな、俺たち」

 

その言葉にクスリと聖奈が笑う。

 

「リノは非常に面白い研究対象だったよ、彼女で俺、卒論書いたんだよね」

 

三宮リノは典型的な「地球は自分中心で回っている」と自覚している女だが裏を返せば自分に自信がなく、ハイブランド、化粧、美意識、そして男、それに囲まれて初めて「自分」を保っていたという。しかしリノはその中でも図太く、多少揺らしても倒れない木のようだった、と蒼は回想する。

 

「先輩のこと、好きじゃなかったの?」

「好きって言うか、まあ求められたらセックスとかもしてたけど、俺のことただアクセサリーみたいに見てたんじゃないかな?何となく」

 

だから、俺がいなくなっても「新しいおもちゃ」を探し始めるだけだよ、と蒼はリノを分析した。

 

一見チャラ男が、まさかそこまで冷静に人の心について学んでるとは思わなかった。

聖奈は口を文字通りあんぐり開けた。

 

「チャラ男でも、やるときゃやるんですよぉ」

 

”東京行き、21:47分発。入場券をお持ちの方、お集まりくださいませ”

アナウンスが流れた、よっこらしょっと、と蒼が立ち上がる。

 

「じゃ気をつけてね」

「へー、そのまま行くんだ」

「...なによ」

 

聖奈が少し拗ねながら振り返ると、そっと蒼がほんの少し煙草の匂いを纏わせながら軽く抱きしめた。