「あ、はい。たった今」
「そう、大変だろうけど頼みますね」
桐生が礼子に向かって微笑みかける。
トクン。
礼子の胸が高鳴った。
「何かあったらすぐ、言って。フォローするから」
「・・ありがとうございます」
桐生の言葉が礼子には特別なものに思えた。
顔をあげると桐生の眼差しが礼子を見つめている。
(そうよ、私だって捨てたものじゃないわ)
礼子は頭に浮かんだフレーズをもう一度、繰り返す。
(みてらっしゃい。私だって・・)
礼子は会議の資料を両手で持ち直し、桐生に告げる。
「早速で申し訳ありませんがお時間、取って頂けますか?ちょっとご相談したいことがありまして・・」
「もちろん良いよ。じゃあ、これから」
気安く請け負う桐生の言葉を制して、礼子が言う。
「あの、出来たら社外で聞いて頂けませんか?会社ではちょっと・・」
含みのある礼子の言葉に桐生は少し間を置いて答える。
「わかりました。じゃあ、明日の夜でどうでしょう?」
「はい、大丈夫です」
そう言って頭を下げた礼子の口元には笑みが浮かんでいた。
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機嫌の悪い礼子は佐智子に無理な案件を押し付けて、自分は桐生とラウンジへ・・・? (私だって・・・)いつかのフレーズが心の中に木霊する。