ただ、娘の未来を…不可能だと諦めた未来を、背負ってくれた娘に感謝を尽くしたかった。
些細な想いが、成し遂げられることはなかった。
リナは余りの惨状に目を伏せたが、佐伯はしっかりとそれを見届ける。
―名前、聞いておけば良かったなぁ―
佐伯は仲井に連絡を取り、交通事故で亡くなった方の家族を探って貰った。
『俺は、ジャーナリストであって探偵じゃないんだがな…』
とぼやきつつも、敏腕の仲井らしく、すぐに娘の会社は判明する。
貿易会社を引き継ぎ、ここ数年で輸入雑貨を専門に取り扱う上場企業になっていた。
佐伯は、青いバラの籠をもって会社を尋ねた。
社長である娘は忙しく捕まらないと言われたが、どうしても依頼人からご本人へ届けるよう言われていると待たせてもらうことにした。
娘はいかにもキャリアウーマン風情で、電話をしながら姿を現した。
「ごめんなさいね。お待たせして…で、どなたから?」
「これは、諏訪部勉様からのご依頼です。」
それは、仲井に調べてもらった、父親の名前だった。
「事故に会う前に、ご依頼されておりまして。受け取ってください。
『不可能な事を成し遂げる』あなたに、奇跡と神の祝福を…」
佐伯は、それだけ伝えると娘の表情を見ずに立ち去っていった。
あの時受け取った500円は、5000円にも1万円にもなりうる価値がある。
彼が必死に作り上げた会社を、継いだ娘の為に、毎日街頭に立ち、食事も控えて貯めた500円に相応しいフラワーアレンジメントを、佐伯は娘に渡した。
娘の泣き声が聞こえる。
それが、何よりもの…〝ナナシ″の客ではなく、諏訪部氏への手向けとならんことを願うのだった。
next:2月4日更新予定
行き場所をなくし、花に身を潜める少女。リナは昔の自分をそこに見た。リナの女として母親としてあるべき姿とは一体?