NOVEL

妻のトリセツ vol.5 ~『友達』の厳選~

あることをきっかけに中学生になった一人息子・春樹の夫・裕司に対する態度が変わっていく・・・?

 


前回:妻のトリセツ vol.4 ~息子の本音~

 

春樹は、無事に第一志望の中学へと進学することが出来た。

 

加奈恵は春樹の努力を知っていたので、それはもう喜んでお祝いをしようと言った。

しかし、お祝い自体には反対しなかったものの、裕司は「それくらい合格して当然」というスタンスだった。それが、加奈恵と春樹に暗い影を落とした。

 

そして、春樹が三年生になって少し経った時のこと――。

 

 ***

 

「お母さん、日曜に友達を連れてきてもいいかな?」

 

最近すっかり背も伸びて、男の子らしさが増した春樹が、ある日そんなことを言ってきた。

春樹は友達が多い方だったので、加奈恵は二つ返事で了承した。

 

「あら、勿論いいわよ。でも、家になんて珍しいわね」

 「うん。参考書を見せてたんだけど、折角だから沢山見たいって言うんだ。学校にはあんなに持っていけないから……」

 

来年高校生になるということもあって、そういう話題が上ることも多いのだろう。春樹は同年代の子よりも沢山参考書を持っていたから、部屋にあるそれを直接見せたいのだろうか、と加奈恵は思った。

 

「じゃあ、お茶菓子も用意しなくちゃね」

 「ありがとう。……甘いものがいいかも」

 

 ***

 

日曜になって、加奈恵は驚いた。春樹が連れてきたのが、女の子だったからだ。

 

 

「桃木といいます、初めまして」

 ボブカットの女の子は、とても清楚で可愛らしい印象を受けた。

緊張しているのか、玄関先でぺこりとお辞儀をする。

 

「あらあら、今日はゆっくりしていってね」

 「ありがとうございます」

 春樹はかなり照れくさそうにしていた。

それは、女の子の友達を連れてきたから、というだけではなく、桃木さんが相手だからのように見えた。

春樹と桃木さんは、二人で顔を見合わせて困ったように照れ笑いした。