「…笑わないで聞いてくださいね。さっきの買い物袋は、全部お菓子です。ストレスがたまると、たくさん買って食べちゃうんです。誰にも見つからないようにすっぴんマスクで出かけます。スリルがあって、気づいたら癖になっちゃいました。」
ちらりと見た袋の中には、たしかにスナック菓子が入っていた。
「そうなのね。普段きっちりしてる分、息抜きの時間があってもいいわよね。甘いものも食べたら落ち着くもんね。」
「そうなんです。わかってくださる方がいて、安心しました。」
香織の表情が少し明るくなった気がするのは、気のせいではないはずだ。
「他のお母さんたちには、こんな弱音はけないです。みんななんでもそつなくこなしているし、なんだかバカにされそうで…。昔からの友達にも、わかってもらえないんです。すみません、こんな話…。」
「香織さんは、自分に厳しいのかもね。『すみません』が口癖になってる気がする。もっと自分のしていることに自信をもってもいいと思う。あなたはよくやっているわ。」
香織はバツが悪そうにする。
「ありがとうございます。でも、言われてみればそうかもしれません。自分のしていることに自信がもてません。ふがいなさにもイライラします。」
「完璧にするなんて、無理よ。きちんとしてる奥様だって、みんななにかしらの不得意なことはあるんだから。」
うーん、と納得いきそうでいかないような表情をする香織。
「…といっても、いきなり気にするなと言われてもそれも無理よね…。」
香織は、今の状況を抜け出したいと思うほど追い詰められている。
頑張っても報われない。
誰を頼ることもできそうにない。
自分で乗り越えるしかない。