でも、その後、それが甘い考えだという事を思い知らされる。
翌日、彼は今までのようにどこか素っ気なくなっていた。
そして…。
「今日は遅くなるかもしれないから、先に食事を済ませてていいぞ」
「いえ、お待ちします」
「その必要はない。 お前は私の言う事に従っていればいいんだ」
「分かりました…」
彼のことを気にかけてみたものの…返ってきたのは今までと同様、どこか無機質さを感じさせる答えだった…。
昨日のあの時間は、いったい何だったのだろうか…?
彼の素っ気ない態度を目にし、私は思わずため息をつく。
そんな時、早苗さんが心配そうな表情で問いかけてくる。
「どうかしましたか、奥様?」
「あ…ごめんなさい、早苗さん。何でもないの」
「あの…もしかして旦那様のことでお悩みですか?」
「あ、うん。実はそうなの」
そんな風に問われたら誤魔化せるはずもなく、少し戸惑いながらも私は答えた。
「間違っていたら、すみません。奥様が気になされているのは旦那様の態度でしょうか」
「・・・」
少し迷いはしたものの、心配させるのも考えものだと思い、私は正直に自分の悩みを打ち明けることにした。
「実はそうなの。なんか最近、素っ気ない気がして。もしかして愛されていないのかな?」
「そんなことありませんよ。旦那様は不器用なだけです」
「本当にそうならいいのだけど…」
早苗さんが気を遣って、そう言っているだけのように感じ、私は思わず気のない返事を返す。
しかし、それを察してか彼女は私に告げた。
「奥様が旦那様と結婚される前から藤堂家に家政婦として働いておりますが、旦那様は何というか…感情表現が苦手なのです」
「そうなの?」
「はい、私も藤堂家で働いたばかりの頃は旦那様の感情表現の乏しさに困惑させられました。ですが母が旦那様の性格を理解していたので、漸く旦那様の事が理解できたのです」
「そうだったのね。でもお母様が彼の事を知っていたってことは、早苗さんのお母様も藤堂家で家政婦として働いていたの?」
「その通りです。もっとも腰を痛めてしまったので、家政婦は引退しましたが」
「まさか、早苗さんのお母様も藤堂家の家政婦さんだったとは思わなかったわ」
彼女が語った意外な事実。