NOVEL

運命の輪 vol.7~ぬくもり~

202X年6月3日 土曜日 午後3時

「ありがとうございました」

紗希は納品書に受け取りのサインをして、配送員を見送った。

運び込まれたばかりのダイニングセットと書斎用のワークデスクは先週、純也と訪れた諏訪の工房で選んだものだ。

 


前回: 運命の輪 vol.6~心の奥に沈むもの~

はじめから読む:運命の輪 vol.1~動きだす時間

 

どれも無垢のカバ材を使ったもので、明るく優しい風合いが特徴的。

薄い色が使いこむほどに艶を増すという説明に惹かれてこれに決めたのだった。

 

「うん、良い感じ」

 

紗希は家具の入った部屋を見渡して満足げに呟くと南向きの窓を開け放った。

薄いレースのカーテンが風に揺れて光の弧を描く。

 

少しずつ、自分の部屋が形作られていくことは思っていた以上に楽しかった。

これまで母が選んだものだけが周りにあったのだと改めて気づく。

落ち着いたオーク材の机より、明るい色が好みだったことも初めて知った。

 

「さて、と。準備しなきゃ」

今日は家具選びに付き合ってくれたお礼を兼ねて、純也を招いている。

昨日買っておいた食材を並べ、軽くアペリティフを用意し始めた。

 

午後6時。窓から差し込む日差しが少し、翳り出す頃。

メインのローストビーフを冷蔵庫に仕舞うと同時に、来客を知らせるチャイムが鳴った。

オートロックのマンションは部屋から解除できる仕組みだ。

インターホンのモニターに純也の笑顔が映し出される。

 

「こんばんは、着いたよ」

「今、開けるわ」

ロックを外して数分。

22階の紗希の部屋のチャイムが鳴らされる。

紗希はエプロンを外して玄関に向かった。

 

「はい、これ!」

ドアを開けるとすぐ目の前に小さなブーケが差し出される。

バラとガーベラ、ブルースターがセンス良くまとまっている。

派手過ぎずどこか愛らしい。

「ありがとう、嬉しいわ」

 

手渡されたブーケを手に、純也を部屋に招き入れた。