NOVEL

noblesse oblige vol.9~動き出した運命の輪~

昼過ぎにホテルを出発して今は3時前。

車は名古屋市街に戻ってきていた。

 


前回:noblesse oblige vol. 8~必然の再会

はじめから読む:noblesse oblige vol.1いつもの夕暮れに~

 

 

  • noblesse obligeノブレス・オブリージュ

 

「先に何かいただきましょう。沙耶香は何が良いかしら?」

瑞穂に尋ねられ、沙耶香は少し思案する。

「落ち着いたところなら、何でも良いわ」

その答えに瑞穂は満足そうに頷く。

「ちょっと待って」

 

スマートフォンを取り出し、どこかに電話をかける。

「ええ、よろしくお願いします。いつもごめんなさい」

 

懇意の店なのだろう。

特別に開けてもらったようだ。

 

車は交差点を右折したところで停まった。

沙耶香と瑞穂を降ろして透が言う。

「じゃあ、行くね」

どうやらここで透とは別行動になるようだ。

「お勉強、しっかりね」

「また子ども扱いする」

瑞穂に頭をくしゃりと撫でられ、透はネコのように首をすくめた。

 

「沙耶香さん、またね」

「ええ、今日はありがとう」

「どういたしまして」

軽く握手を交わして、透は走り去った。

 

「さ、行きましょう」

瑞穂が階段を降りて店のドアを開ける。

 

“Mas de Lavande”

 

栄の名店として名高い。

以前、沙耶香も訪れたことがある。

通常、ランチタイムは開けていないはずだった。

 

「お待ちいたしておりました」

恭しく頭を下げたギャルソンに迎えられ、席に案内される。

「ワイン、いただいて良いかしら?沙耶香も飲まない?」

ワインリストを片手に瑞穂が言う。

 

「じゃあ少しだけ」

「白にしましょうか」

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