NOVEL

noblesse oblige vol.9~動き出した運命の輪~

「そういうこと」

「どうかしていたわ」

「そうね。でもまたどうして?」

質問の意味を取りかねて沙耶香が返す。

「どうして美佐恵さんかってこと?」

「いいえ。3,000万円ってところ」

顔をあげると瑞穂がまっすぐ見つめている。

興味本位というわけでもなさそうだ。

 

ナイフとフォークを降ろして沙耶香は姿勢を正した。

「自分で目指すより現実的でしょう?」

「だから、どうして?」

本当のところが知りたいと瑞穂の瞳が問いかける。

 

話してしまって良いものか、少し考えて沙耶香は続けた。

「前の事故のとき、思ったの。誰かを助けるには力が要るわ」

 

沙耶香が北海道の事故のことを言っていることはすぐに分かった。

 

あの時、レスキューに麓まで運ばれ、緊急搬送された少女のことを聞いた。

日曜日だったこともあり受け入れ先はなかなか見つからなかった。

もう少し早く搬送できれば、あるいは助かったかもしれない。

即死ではなかった。

止血しようと首を押さえていたとき、確かに少女の瞳は動いていた。

 

「ここに病院があれば」と沙耶香は強く思ったのだ。

もちろん救護室はある。

しかし応急手当にすぎず、生命に関わるような事態には対応できない。

 

「安全なレジャー施設を作りたいの?」

瑞穂が尋ねる。

「それだけじゃないわ。色々なことを知るほど、出来ることがたくさんあるの」

沙耶香の瞳には強い光が宿っている。

本気で思っているのだろう。

 

「ノブレス・オブリージュ」

瑞穂が囁くように口にする。

「持てるものの義務」

沙耶香もそれに応えた。

「やっぱり貴女のこと、好きよ」

瑞穂が楽しそうに微笑んだ。

 

「馬鹿げた考えね。自分じゃできないのに」

視線を下げ、伏し目がちに沙耶香が言う。

「大丈夫。貴女の願いは叶うわ」

不思議そうに見上げる沙耶香に瑞穂は続ける。

「私には見えるから」