信号が青に変わる。
車は緩やかに加速していく。
高速道路に入ると青空が広がった。
もう人の目は気にならない。
真っ直ぐな道が遠い日に繋がっていく気がして、紗希は目を閉じた。
16年前 11月
- 温かな口づけ
「大丈夫!落ち着いて」
クラス委員の美也子が舞台袖で号令をかける。
「いい?クラスの優勝がかかってるから、みんな頑張って!」
文化祭の大トリは紗希たちクラスの演劇だった。順番は抽選らしいけれど、人気者の香那が出演するせいもあったのかもしれない。
演目は“ロミオとジュリエット”
ロミオにはもちろん、満場一致で香那が選ばれた。渋い顔をしていたけれど、紗希がジュリエットをするなら、と条件を付けた。
紗希はもちろん、断った。がクラス中、いや学校中の切望を受け、引き受けざるを得なかった。
「恨むわ、香那」
練習中、何度も囁いたセリフ。
「諦めて、私も引き受けたんだから」
そういう香那はどこか楽しそうだった。