NOVEL

きっとこの先は。vol.5~月が明けた~

私たちの料亭と、鈴木の作った組合“長良川料亭・割烹協同組合”との静かな戦いが始まった。

組合は週に一度の定例報告書をインターネット上にアップロードし、拡散した。これには各月の組合内の総売り上げや来客数、アンケート結果等がこと細かに記載してあった。

 


前回:きっとこの先は。vol.4裏切ってまで

はじめから読む:きっとこの先は。vol.1~この夜を迎えるまでは~

 

 

最初こそあまり効果が見られなかった組合だったが、その宣伝効果は如実に表れてきた。インターネットやSNSを使用した大々的なプロモーションや、口コミでの広まり、組合内のお店同士でのキャンペーンなど、あらゆる手を使ってその名を広げていった。

 

私たちも負けてはいられない。組合程の大きな宣伝はできなかったが、お店での接客方法の改善・見直し、お客様へのサービス等の充実、お料理の開発を進め、更なる向上を目指した。

 

 

「女将さん!お料理どうですか!」

「今見に行くわね」

「今日のお客さん、この流れで大丈夫ですか?」

「見せて。・・・うん、大丈夫」

 

料亭の中が騒々しく右往左往している。バタバタ。ガチャガチャ。いろいろなところで、いろいろな音がしており、一度落ち着かないと指示を誤ってしまいそうだ。通常のお客様対応の指示以外にも、自分たちの新しい顧客の開拓やプロモーション内容の検討など、とにかくやることが多い。

 

日々がひたすらに早く過ぎた。何をしても時間が足りなかった。時間が過ぎる早さは置かれている状況によって違うと思う。こういう時に、退屈な時の余剰の時間を持ってくることが出来たら、もっとうまく物事をこなせると思うのだが。

 

外は暑さが和らぎ、生暖かい風から纏わりつく湿気が抜けて、少しずつ心地よく感じてくる。蝉の鳴く声もアブラゼミからツクツクボウシに変わり、数も段々と減ってくる。鵜飼船も頻度を減らし、夜の長良川はまたヌルヌルとその黒い巨体をうねらせていた。お店が終わり、帰り道に川べりを歩くと、その黒さに吞まれそうになる。

 

 

 

吸い込まれそうになるところ、頭を振る。今、呑まれるわけにはいかないのだ。組合からのプレッシャーの中、やらなければいけないことや見えていないことが、果てしない不安を煽る。仲居や料理人、その他関わってくださる人たちの思いを背負うには、私の背中で十分なのか、確証がない。

 

しかし、私は常に顔には笑顔を貼り付けて、導かなければいけない。

 

「そう思うと鈴木のことばかり、とやかくと言うことはできないわね」