何人かは書き終え、既に地球儀の中に入れている。
紗希はというと先ほどから便箋を前に左手をギュと握りしめていた。
(何て書こう?20年後の自分なんて想像つかない)
口をぎゅっと一文字に固く結んで考え込む紗希に隣の席の克哉が声を掛けた。
「考えすぎなんだよ、お前」
坂本克哉。学級委員で何かと接点が多かった。
男子の中では一番、親しかったかもしれない。
「悩むな。思ったまま書けばいいんだよ」
「・・・」
「じゃあさ、20年後。お互いに交換しよう、手紙」
「え?」
驚いた様に顔を上げた紗希を見つめて克哉が言う。
「俺のとお前の、交換な!」
そう言うと何かを便箋に書き足した。
その様子をしばらく見てから紗希も決心したように鉛筆を握り直す。
一つ深呼吸をすると、便箋に文字を書き始めた。
書き上げた手紙を丁寧に折りたたんで、封筒に入れる。
しっかり、糊付けをしたら自分の名前を書く。
宮田紗希
願いを込める様に、両手でそっと地球儀の中に入れた。
全員が手紙を入れたのを確認して先生が青いテープで封をした。
「じゃあ、20年後まで先生が預かっておくな」
そのあと後藤先生が同窓会の係を指名する。
たまたま日直に当たっていたふたりが任命された。
「じゃあ、斎藤と坂本、頼んだぞ」
あれから20年。
過ぎてしまえば早かったと紗希は思う。
「あの時、何て書いたんだっけ?」
思い返そうとしても、何も浮かんでこない。
物覚えの良い紗希にしては珍しいことだった。
ただ懸命に書き上げたことだけは覚えている。
(あの手紙を読んでみたい)
止まっていた時間が不意に動き出す気がした。
時計の秒針のように窓から見える青空の中、飛行機雲が伸びていった。
Next:6月15日更新
20年ぶりに小学生時代の友人・由衣と会うことになった紗希はお互いにあまり変わっていないことにほっとするも、由衣からある不自然な質問をされ、戸惑ってしまう。