NOVEL

夫婦のカタチ vol.5~ママ友との交流~

そんな仕事に逃げる平日も金曜日の今日まで。

 

今日こそは早く帰って奈緒美と向き合う時間を作ろう。

そして土日には勇希と3人でどこか出かけよう。

そんな前向きな気持ちで家路に着く。

 

 

エントランスを抜けて長いエレベーターの沈黙の中でリハーサルをしている自分がいる。

プロポーズ前に少し似た感覚だったが、その意味が大きく違うことは誰よりも自分がよくわかっていた。

 

玄関のドアを開ける。

「ただいま」

だが返事は返ってこない。

よく耳を澄ますと、どうやら奈緒美はリビングで電話中のようだった。

 

俺には気づいていないのか電話で話し続ける奈緒美の会話が耳に入った。

 

「ママ友っていうのが初めてでね!すごく嬉しかったの私。勇希もすごく楽しそうで〜」

 

いつもより少し早口なのは嬉しがっている時の奈緒美の癖だ。

 

(俺の知らない間にママ友までできてるんだなぁ・・・)

 

そう感じながら聞いていると

奈緒美が何気なく言った一言が、自分の心に染みをつくったのがわかった。

 

「やっと子育てのパートナーができた気分!」

 

仕方ないのはわかってる。

けれどそれが言葉になった途端に事実として突き刺さった。

 

(今日は早く寝て明日は休日出勤するか・・・)

 

こうして逃げるしか、もう俺の心は保っていられなかった。

 

 

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久しぶりにショッピングモールへ息子の勇希と出かけた奈緒美はある光景を目にし、居心地の悪いチクリとする感覚を覚えた。