こんな康平からのダイレクトメッセージも、結局みんなに送った社交辞令と受け止めて
私はそつなく返事をしてしまった。
しかし次の日、
友人から聞いた反応は意外なものだった。
「康平から奈緒美と食事に行かせてくれって、連絡来てるけどどうする?」
康平がなぜあの時に私を誘ったのか、今でも私にはさっぱりわからない。
けれど康平は、手に入れたいものは必ず手に入れる。
これまでもそうして自らの描く幸せを手にしてきたのだろう。
2人で会うようになってから康平は無理する様子もなく常にスマートで、私に居心地の良さを感じさせた。
私もいつしか康平との未来を考え、2人で歩む華やかな人生を想像するようになった。
-自分を捨てる瞬間-
私と康平は順調な交際期間を経て結婚。
喧嘩はほとんどしたことがなく、互いをリスペクトできる関係。
気付けば、私はまさに「理想の夫婦像」を流されるまま手にしていた。
籍を入れた半年後にはお腹に子供を授かった。
社会人5年目、26歳の春だった。
ちょうど仕事では節目の年ということもあり、初めて1人で任される大きなプロジェクトを控えていた。
責任もそれなりに持てるようになり、やっと軌道に乗ってきた矢先の妊娠。
当然、仕事を頑張りきって産休に入りたいという気持ちで働いた。
しかし気持ちだけではどうにもならない体調が続いた。
妊娠悪阻となった私は1ヶ月の休職となり、プロジェクトは後輩の男性社員に引き継がれ、気づけば私のポジションはなくなっていた。
「結局女性は子供ができた途端、会社にとっては戦力外になるもんねぇ」
マタハラな言葉も会社にいれば自然と耳に入ってくる。
これまでの4年間、自分のキャリアに早く磨きをかけるため、実績の積める名古屋を志望して
慣れない土地で自分なりに頑張ってきた。
その積み上げてきたものがたった1ヶ月のブランクで崩れ去った。