NOVEL

【新連載スタート】夫婦のカタチ vol.1~失ったもの~

こんな康平からのダイレクトメッセージも、結局みんなに送った社交辞令と受け止めて

私はそつなく返事をしてしまった。

 

しかし次の日、

友人から聞いた反応は意外なものだった。

 

「康平から奈緒美と食事に行かせてくれって、連絡来てるけどどうする?」

 

康平がなぜあの時に私を誘ったのか、今でも私にはさっぱりわからない。

 

けれど康平は、手に入れたいものは必ず手に入れる。

これまでもそうして自らの描く幸せを手にしてきたのだろう。

2人で会うようになってから康平は無理する様子もなく常にスマートで、私に居心地の良さを感じさせた。

 

私もいつしか康平との未来を考え、2人で歩む華やかな人生を想像するようになった。

 

-自分を捨てる瞬間-

 

私と康平は順調な交際期間を経て結婚。

喧嘩はほとんどしたことがなく、互いをリスペクトできる関係。

気付けば、私はまさに「理想の夫婦像」を流されるまま手にしていた。

 

籍を入れた半年後にはお腹に子供を授かった。

社会人5年目、26歳の春だった。

 

ちょうど仕事では節目の年ということもあり、初めて1人で任される大きなプロジェクトを控えていた。

責任もそれなりに持てるようになり、やっと軌道に乗ってきた矢先の妊娠。

当然、仕事を頑張りきって産休に入りたいという気持ちで働いた。

 

しかし気持ちだけではどうにもならない体調が続いた。

妊娠悪阻となった私は1ヶ月の休職となり、プロジェクトは後輩の男性社員に引き継がれ、気づけば私のポジションはなくなっていた。

 

「結局女性は子供ができた途端、会社にとっては戦力外になるもんねぇ」

マタハラな言葉も会社にいれば自然と耳に入ってくる。

 

これまでの4年間、自分のキャリアに早く磨きをかけるため、実績の積める名古屋を志望して

慣れない土地で自分なりに頑張ってきた。

その積み上げてきたものがたった1ヶ月のブランクで崩れ去った。