NOVEL

選ばれない女 vol.9~高飛車な観点~

「中込さん、なんかいきいきとしてるね。」

頼まれていた書類を上司に手渡すと呼び止められる。


前回▶選ばれない女 vol.8~やっぱりわたしの目に狂いはなかった~

はじめから読む▶選ばれない女 vol.1~婚活パーティー~

 

「そうですか?そんなことないですよ。」

「そうなのー?ま、最近は金森さんのことでバタバタしてたもんね。やっと落ち着いてひと安心だよー。何にせよ、元気なのはいいことだ!」

 

美里の一件で、しばらく会社は忙しかった。

彼女はあれから一度も出社をすることなく会社を辞めた。

真奈美に慰謝料を請求され、和解はしたものの噂が広がり居づらくなったのだろう。

愛沙たちの部署は、美里の残った仕事と引き継ぎとでてんやわんやだったのだ。

 

それがここ数日で徐々に通常業務だけに集中できるようになっていた。

婚活の方も今のところ順調だ。

清水とは無事に仮交際に繋がり、2回目のデートも終えた。

 

魚が好きな清水に付き合う形で名古屋港水族館に行った。

イルカのパフォーマンスを最前列で見て、2人して水を浴び、歓声をあげた。

南館へ行き、終盤のくらげエリアまで来たとき、清水がおもむろに口を開いた。

 

「例えばですけど…愛沙さんは、結婚したら仕事はどうされたいですか」

くらげの優美さに見とれていた愛沙は、急な話題にびっくりする。

薄暗い水族館の中で、清水から真剣な眼差しを向けられどきりとした。

 

「経営というのは収入に波があるのは理解しています。でも、わたしは結婚したら家庭に専念したいので仕事は辞めたいです」

今の自分の気持ちをそのまま伝えた。

 

安定的な地位は手に入れたい。

優雅に暮らしたい。

できれば働きたくない。

 

「そうですか。わかりました」

 

そう言った清水は顔を背け、その表情は読み取れなかった。