目線の下に小さく見える車。都心に立ち並ぶ高層マンションの明かり。
人々の生活を感じる都市の喧騒から離れた宙に浮いたような暮らし。
デザイナーによって洗練されたモダンインテリアに囲まれた生活は
多くの女性が少し背伸びをしてでも手にしたい「理想」という言葉、まさにそのものである。
「奈緒美、ただいま!」
夫の康平が今日もお気に入りのデパ地下デザートを片手に帰宅する。
完璧な住まい、ゆとりある夫、「幸せそうな夫婦の暮らし」を
20代の若さで手にした私は誰からも羨ましがられる存在だった。
-夫との出会い-
生まれてからずっと東北の実家暮らし。
貧乏ではなかったものの、決して裕福ではなかった私は公立高校を卒業後、実家から通える大学に進学。
卒業と同時に就職し、名古屋での新しい生活が始まった。
ファッションも人並みに着飾り、シンプルなセルフネイルで手元を彩り、部屋にはドライフラワーやハーバリウム、女の子の香りがする香水の小瓶を飾った。
一軍女子にはなれないものの都会に馴染む事は時間が解決してくれた。
名古屋の都会暮らしにもすっかり慣れ、仕事も板についてきた社会人24歳の夏。
大学時代のサークル仲間の紹介で当時26歳だった康平に出会った。
康平は飲み会の席ではいつも会話の中心で、ムードメーカーで周りにも慕われていた。
交換したSNSを覗くと綺麗なメイクで華のある女友達がいて
今時の男女グループで出かける写真、ファッションに敏感な男友達とワークアウトに励む写真、
時々載せられるシンプルモダンに統一された自宅の写真…。
「話しやすいけれど、とても自分とは住む世界が違うなぁ…」
顔立ちも良く明らかにモテる全てを手にしているような康平を、私は初対面から諦めていた。
「今日は初めましてだったけど、すごく楽しい会でした!
料理も美味くて最高!是非またご飯でも行きましょう!」