震えた指で送信ボタンを押す。たった1行の文章。だけど、こんなに送るのが怖いなんて。
いつかは終わらせなければならないと覚悟していたはずなのに。いざその時が来ると、送ったメッセージに後悔してしまう。
「わかった」
私のメッセージに対して、あっさりとした文章で返す翔太。引き止めもしないし理由も聞かない。
翔太にとっての私は、それだけの相手だったのだろう。
いつでも切り捨てられるような存在。
「バカだなあ…」
仕事中にも関わらず、徐々に視界が滲んでいく。
上を向いて必死で涙を止めている私がよほど不自然だったのか、近くにいた同僚に心配の声をかけられる。
「大丈夫?今日はもう帰ったら?」
「ごめん、ちょっと体調悪いから今日は帰るね」
「わかった、部長には私が伝えておくからゆっくり休んで」
幸い今日の仕事は片付けていたから、少し早く帰ることにした。会社を出た途端、抑えていた涙が溢れ出す。
丸の内のオフィス街のど真ん中で涙を流す33歳のOL。
なんて滑稽なんだ。街を歩く人からの視線を感じる。だけど今は、そんなことを気にしてる余裕なんてなかった。
街の人からの視線を受けながら、駅のトイレへと駆け込む。
鏡を見ると、涙でぐしゃぐしゃに崩れたメイクとトナカイみたいに真っ赤になった鼻。
翔太とのお泊まりに備えて、常に入れていたメイク道具がここで役に立つとは。何だか悔しい。
私は急いでメイクを直すと、改札口へと向かった。
いつもより少し早い電車。いつもより人が少ないからか、外の景色がよく見える。
家の最寄り駅まであと10分。徐々に増えていく緑と共に、あの日のことを思い出す。
「あれ、友梨ちゃん?」
説明会の日、電車の中でたまたま遭遇した翔太。
あの日遭遇しなければ、今の私はどうなっていたのだろう。もしかしたら、自然消滅として終わっていたかもしれない。
引いていたはずの涙が、再び溢れてくる。その日の10分は、いつもよりも長く感じた。