NOVEL

Second Woman vol.6~噛み合わない歯車~

いつだか、俺のしているネクタイに三村が気づいたことがあった。

「そのネクタイ、結構ハイエンドなブランドのものじゃない?純くん、何だか前よりお洒落になったね」

それはホテルのバーで加澄さんに頂いたものだった。

加澄さんとの関係が始まってから、これまで行ったことのないようなレストランや、ハイエンドなオーダーメイドスーツのお店などに行くことが度々あった。

一流のビジネスマンになったような気がして正直なところ気分が良い。

仕立てたスーツというのは見る人が見ればわかるらしく、取引先の方から褒めていただくこともあった。

 

 

外で待ち合わせをする時は会社の人間に会わないような場所を選んだり、高級レストランでは個室のことが多い。初めて飲んだホテルのバーだって自分一人だったら絶対に踏み入れなかったランクの場所だ。

少し慣れてきたのもあって、部屋で会うだけではなく外に出かけることも数回あった。

街中でのショッピング。

二之丸庭園の紅葉。

仕事後に徳川園のライトアップ。

加澄さんは日本庭園の趣が好きらしく、のんびりと一緒に散歩をした。

趣味の話や赴任中の大変だったこと、きっかけはどうであれ海外で経験を重ねたのは嬉しかったこと、こうやって沢山話してみると改めて魅力的だなと思う。

俺はニュージーランドでの生活や他部署での経験などを話し、彼女が聞き上手なせいか自分が饒舌であるのに少し驚く。三村といるときの俺はどちらかというと聞き役が多いのに。

ただ二人で歩いていると普通のカップルみたいだ。

 

相変わらず俺の話に微笑んでくれたり優しかったり部屋での関係も続いていたが、当初のような舞い上がる気持ちはさすがに落ちてきていた。

彼女のことばかり考えてしまうこともあり、最近では三村に対して罪悪感の方が強い。

俺はどうしたいんだっけ?この先どうなるんだ?

三村は彼女としても結婚相手としても十分すぎるくらいだ。それなのになぜ俺は加澄さんと関係を続けてしまっているんだろう。

 

加澄さんはあれから人事部長の話をすることはなかった。最初に飲んだあの日だけだ。

不倫をして別れて日本に戻ってきたら人事部長は独身になっていた。その状況を今はどう捉えているのだろうか。

それに人事部長は離婚してまで彼女と一緒になる気はなかったのだろうか。

海外赴任先へ遊びに行くこともあったというから完全に切れたわけではないのだろうけど、好きじゃないならわざわざ会いに行かないよな?

俺には理解できない。

 

「加澄さん、好きだよ」

何度かそう言ったことがある。

一緒にワインを飲んでいる時、夕暮れを歩いている時、夜に寝る前。

でもその言葉に彼女が返してくれることはなかった。ただ微笑むだけだ。

そのくせ仕事の後に部屋に呼んだりしてたっぷりと身体を預けてきたりする。

メッセージを既読スルーするかと思えば突然呼び出すこともあった。気づけば、俺はいつでも彼女の部屋に会いに行けるよう意識してしまっていた。

酷い時には三村と会っている時、途中で切り上げて行ってしまったほどだ。理由は適当に作って向かったのだった。

 

でも、この2週間彼女と会っていない。

前のように誘われることはなく、俺から連絡をしてもそつない返事だった。

これは意図的に避けられているのか。それともただ仕事が忙しいだけなのか。

会社で見かけることはあったが休憩室で会うこともなく、待ち合わせもせず、何だか少し遠くなっていた。