NOVEL

玉の輿vol.6 ~麻梨恵の章~

麻梨恵は、淡々と言葉を並べ立てる。

100%本心ではないことは解るが、元来の嘘つきとは本音と真実を織り交ぜて、嘘をつく。

8割の偽と2割の本音。

その2割を探ることが、相手からマウントをとる最良の手段だ。

愛子の読心術を駆使しても、表情が大きく変わらない麻梨恵が相手だとやりにくい。

 

「あの…人畜無害そうな奥さん。可哀そうね…まるで、scapegoatよ…」

 

その頃、雄一郎はやっと役員連中から解放され、離れに忍んで向かう途中だった。

珠子が倒れた後から、芽衣の様子が気になっていた。

 

 

形だけでも珠子を見舞った後に、愛子の部屋に行く予定であったが、愛子から今晩くらいは大人しくしていなさいと促され、予定を崩されたことで思い出したように、雄一郎は珠子の見舞いもせずに、芽衣のもとへと足を向けた。

 

たとえ、誰かに見つかったとしても構わない。

使用人たちは、存外に口が堅い。

己の保身を思うならば、見ない、聞かない、言わないに徹するべきであることを知っている。

 

少なくとも、白壁の豪邸で使用人を務めている以上は、それが暗黙のルールとなっていた。

それ相応の対価を受け取り、此処に居続けるための保身術だ。

 

離れに向かうのは久々だった。

雄一郎が呼ばずとも、芽衣から顔を出してくれる。

 

しかし、今後はそのスタイルも変わっていくのだろう。

面倒だとは思うが、雄一郎も西園寺家の人間として役目を果たさなければならない。

代々受け継がれてきたこの地を、継がせる世継ぎを産ませる。

それが、放蕩息子に与えられた、唯一の使命だった。

 

 

麻梨恵はパーティーから随分と飲んでいて、既に呂律が廻っていない。

しかし正気ではあるし、顔色も変わっていなかった。

 

「愛子さぁ、あの男と寝てるんでしょ?」

愛子は大きな目を更に丸くする。

西園寺家の一室で言っていい言葉ではない!

 

「ここは名古屋よ?誰もこの敷地で見聞きしたことを、漏らしたりしないわよ。

あなたも、一度離れてみたら解るわよ。

閉鎖的で、見栄ばかり。苦しかった…わぁ…」

 

ロックグラスを傾けながら、麻梨恵はしみじみと語る。

 

「私には何もなかった。

ただ、流沢の娘に生まれて、あの人と結婚するんだって言われて…あれと対等になりたいと思って…。憧れ?…だったけどね。

それも疲れたのよ。流沢は西園寺家と違って、ただの成り上がりだからね」