NOVEL

玉の輿vol.6 ~麻梨恵の章~

プライドが軋む。見栄が張り付き、感情の行き場をなくしたとき…!

何かに、誰かに、押し付けて壊したい衝動に駆られた女が…矛先を向けるのは…常に女…

 


前回▶玉の輿vol.5~謀略の章~

はじめから読む▶玉の輿 vol.1~珠子の章~

 

本来ならば、今夜が初夜のはずだった。

珠子は胃痛で脂汗を滲ませながら、寝苦しい夜を一人で過ごしていた。

 

愛子が夜も付き添うと言ってくれたが、珠子が断った。

珠子に付き合って、愛子もハードワークが続いている。これ以上の迷惑をかけるのは申し訳なかった。

 

 

その頃、愛子は麻梨恵を西園寺家のサロンに連れ込んでいた。

その誘いを、麻梨恵が断らなかったのは意外だった。

 

珠子の不在をいいことに、この女ならば雄一郎に言い寄る気がしたからだ。

 

腹の探り合いならば受けて立つとでも言いたげに、麻梨恵は横柄な物言いから始めた。

 

「随分と、上手に立ち回っているみたいね!」

「なんのことですか?私は仕事をしているだけですよ」

 

流沢家は、愛子のスタイリスト事務所のビルオーナーだった。

だからといって、恐縮する必要はない。

会社は、麻梨恵の兄が継ぐことになっている。

麻梨恵自身が招いた男癖の悪さから、海外赴任させられ、雄一郎との縁談も白紙になった。

 

麻梨恵は、愛子ほど上手く男を操れない。

情人をいくら作っても良いが、嗜み程度で終わらせられず、人情沙汰にまで発展させ、あわやゴシップ記事になりかけた過去がある。

 

見て知っても、見ぬふり知らぬふりはできるが、世論に漏れればそうはいかない。

 

身目麗しく、どんなに顔や体をいじっても、自惚れた内面は変わらないのだ。

だから、麻梨恵の事は警戒する。

否、この女にだけは、絶対に渡さない。

 

「足止め?友人思いね。

雄一郎が、婚約者のところに行くように仕向けてあげるなんて」

「妻ですよ。婚約者じゃなくて…元、婚約者としては焼けますか?」

 

愛子も無遠慮な物言いで返す。

麻梨恵の表情は硬直していたが、整形のやりすぎで、顔面の筋肉が強張ったままだ。

 

「何か、勘違いしているみたいだけど。私は雄一郎に拘りはないわよ」

「へぇ…そうですか」

「雄一郎よりいい男なんて沢山いるのに、なぜそこまで執着する女が後を絶たないのか、不思議なくらい」