プライドが軋む。見栄が張り付き、感情の行き場をなくしたとき…!
何かに、誰かに、押し付けて壊したい衝動に駆られた女が…矛先を向けるのは…常に女…
はじめから読む▶玉の輿 vol.1~珠子の章~
本来ならば、今夜が初夜のはずだった。
珠子は胃痛で脂汗を滲ませながら、寝苦しい夜を一人で過ごしていた。
愛子が夜も付き添うと言ってくれたが、珠子が断った。
珠子に付き合って、愛子もハードワークが続いている。これ以上の迷惑をかけるのは申し訳なかった。
その頃、愛子は麻梨恵を西園寺家のサロンに連れ込んでいた。
その誘いを、麻梨恵が断らなかったのは意外だった。
珠子の不在をいいことに、この女ならば雄一郎に言い寄る気がしたからだ。
腹の探り合いならば受けて立つとでも言いたげに、麻梨恵は横柄な物言いから始めた。
「随分と、上手に立ち回っているみたいね!」
「なんのことですか?私は仕事をしているだけですよ」
流沢家は、愛子のスタイリスト事務所のビルオーナーだった。
だからといって、恐縮する必要はない。
会社は、麻梨恵の兄が継ぐことになっている。
麻梨恵自身が招いた男癖の悪さから、海外赴任させられ、雄一郎との縁談も白紙になった。
麻梨恵は、愛子ほど上手く男を操れない。
情人をいくら作っても良いが、嗜み程度で終わらせられず、人情沙汰にまで発展させ、あわやゴシップ記事になりかけた過去がある。
見て知っても、見ぬふり知らぬふりはできるが、世論に漏れればそうはいかない。
身目麗しく、どんなに顔や体をいじっても、自惚れた内面は変わらないのだ。
だから、麻梨恵の事は警戒する。
否、この女にだけは、絶対に渡さない。
「足止め?友人思いね。
雄一郎が、婚約者のところに行くように仕向けてあげるなんて」
「妻ですよ。婚約者じゃなくて…元、婚約者としては焼けますか?」
愛子も無遠慮な物言いで返す。
麻梨恵の表情は硬直していたが、整形のやりすぎで、顔面の筋肉が強張ったままだ。
「何か、勘違いしているみたいだけど。私は雄一郎に拘りはないわよ」
「へぇ…そうですか」
「雄一郎よりいい男なんて沢山いるのに、なぜそこまで執着する女が後を絶たないのか、不思議なくらい」