初めて会ったときは、感情も見えず、そして攻撃的で。女性ということもあいまって、ひどく苦手な印象だった。
けれど、実際の彼女は表情豊かで。攻撃性だと思ったものは、過去に深く傷ついた心を護るためのもので。
行動力があって、そして、他人のために怒ったり、受け入れたり、思いやったりできる彼女。
(きっと……今のは、覚えててくれてるからなんだろうな)
例の同窓会が、今日だということを。
どうしたって落ち着かない僕の気持ちを察して、あんなふうに言ってくれたんだろう。
「同志、か」
仕事仲間とも、友達とも違う。同じ傷を抱えて――舐め合うんじゃなくて、支え合えるような。そんな関係が、築けるなら。
***
結局、なんだかんだ昼過ぎまで、夢中になって取り組んでしまった。おかげで、手もつま先も痛い。
「でも結構、課題は進んだな」
次回からは、次のレベルに上がれそうだ。途中詰まるところもあったけれど、身体の動かし方や、ホールドを持つ位置、足の引っかけ方を少し変えるだけで、ぐんと登りやすくなったりするのだから、本当に奥が深いスポーツなのだなと思う。
椅子に戻ると、槙さんがプロテインを飲み終えたところだった。多分、昼飯代わりなのだろう。シェイカーをしまい、他の荷物もバックパックに詰め込んでいく。
「上がるんですか?」
「はい。着替えてからですけど」
ここで自分も上がったら、まるで一緒に帰りたがっているように見えてしまうだろうか。
「同志」と言ってもらったけれど、それでも僕は槙さんの苦手とする「男」というもので、そういう慣れ合いは、なんだか違う気もする。と言うか、嫌がられるような気が――。
「御前崎さんも上がりですか?」
「え、あ……はい」
なんとなく後ろめたい気持ちになりつつ頷くと、槙さんは少しだけ首を傾げて言った。
「じゃあ、せっかくだから、駅までご一緒しませんか」
「いえ」
「なにかご用事があれば、別ですけど」
いえ、という返事は。思いのほか、食い込み気味になってしまった。
「槙さんが、嫌でなければ……」
「じゃあ、入口で待っててください」
笑って手を振る槙さんに、僕は茫然とした気持ちで、気がつけば手を振り返していた。
***