瑞穂がそう言うと何だか本当になりそうな気がする。
ワイングラスを持ち上げて口付ける。
爽やかなオレンジや麝香(じゃこう)の香りが広がる。
まるで夢を見ているような時間をただ漂っていた。
- 3つ目の扉
食事を終えて外へ出る。
時計は6時を指していた。
頼んでおいたタクシーに乗り込み、瑞穂が行き先を告げる。
「もう少し付き合ってね」
「それは良いのだけれど・・」
代金を瑞穂は受け取らない。
瑞穂自身もその場では払わなかったため機を逸したのだ。
困り顔の沙耶香を見て瑞穂はクスッと笑う。
「ねぇ、沙耶香。考えてみて。これは先への贈りもの」
「pay it forwardってこと?」
「付け入るのは駄目、でも必要なもの」
腑に落ちかねる沙耶香を見つめながら瑞穂が続ける。
「沙耶香にもすぐに分かるわ」
その時、タクシーが大きな門構えの邸の前で停まった。
門には「千賀」の文字が刻まれている。
降り立ったふたりを夕闇が包み始めていた。
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