NOVEL

noblesse oblige vol.9~動き出した運命の輪~

瑞穂がそう言うと何だか本当になりそうな気がする。

ワイングラスを持ち上げて口付ける。

爽やかなオレンジや麝香(じゃこう)の香りが広がる。

まるで夢を見ているような時間をただ漂っていた。

 

  • 3つ目の扉

 

食事を終えて外へ出る。

時計は6時を指していた。

頼んでおいたタクシーに乗り込み、瑞穂が行き先を告げる。

 

「もう少し付き合ってね」

「それは良いのだけれど・・」

代金を瑞穂は受け取らない。

瑞穂自身もその場では払わなかったため機を逸したのだ。

 

困り顔の沙耶香を見て瑞穂はクスッと笑う。

「ねぇ、沙耶香。考えてみて。これは先への贈りもの」

pay it forwardってこと?」

「付け入るのは駄目、でも必要なもの」

腑に落ちかねる沙耶香を見つめながら瑞穂が続ける。

「沙耶香にもすぐに分かるわ」

 

その時、タクシーが大きな門構えの邸の前で停まった。

門には「千賀」の文字が刻まれている。

 

降り立ったふたりを夕闇が包み始めていた。

 

Next:728日更新予定

あの事故から2年。沙耶香、瑞穂、静音―運命の糸を手繰り寄せた3人の女性たち。それぞれの行く末は?次回最終回!