NOVEL

noblesse oblige vol.9~動き出した運命の輪~

「好き嫌いはおありになる?」

「牡蠣だけね。前に当たってしまってから全く駄目」

尋ねられて沙耶香が答える。

「あら、私もよ。シドニーのオイスターバーでひどい目に遭ったわ」

瑞穂が楽しそうに返す。

「本当、残念。でも偶然ね」

残念そうに沙耶香が答える。

「本当に」

意味深に瑞穂が相槌を打ったとき、ワインが運ばれてくる。

 

「シャトー・オー・ブリオン ブラン 2017年ものでございます」

ソムリエがラベルを見せ、テイスティングの準備をしようとした時。

 

「それで良いわ。いつもありがとう」

瑞穂が軽く左手で制した。

 

ワインに詳しくない沙耶香でもかなりの高級品だと分かる。

普段なら自分では選ばない店と品。

けれどこの空間が心地よい。

今はただこの時間を楽しもうと決めた。

 

「じゃあ乾杯」

「再会に」

 

カチリ。バカラのアンクールが軽やかな音を立てた。

 

運ばれてきた料理はどれも美味しかった。

見た目も、爽やかなテイストもワインの風味と合う。

量も適量。

多すぎず、少なすぎない。

 

仔牛のローストにナイフを入れながら瑞穂が尋ねた。

「美佐恵さん、だったかしら。何か頼んだの?」

 

少し逡巡してから沙耶香は嵐の夜の経緯を話した。