沙耶香が差し出した手をしっかり握り返す。
笑顔の透に他意は感じない。
(心の綺麗な素直な子)沙耶香は温かな気持ちに包まれていた。
「さ、行きましょう」
「車を回すから待っていて」
透が荷物をまとめて持ち上げる。
瑞穂と沙耶香はゆっくり正面玄関へ向かう。
「名古屋まで戻って良いかしら?」
瑞穂が尋ねる
「ええ。何も予定はないから大丈夫」
「良かったわ。お腹は空いていない?」
「まだ平気」
「そう、じゃあ戻ってから何かいただきましょう」
真っ白なベンツが目の前に停まる。
運転席から降りて来た透がまず後部座席のドアを開けた。
促されて沙耶香はシートに身体を沈める。
助手席のドアを開けて瑞穂を促した。
「ありがとう」
透に軽くキスして瑞穂が乗り込む。
助手席と後部座席のドアを閉め、運転席に戻る動作がスマートだ。
レディファーストが板についている。
それ以上に透の人柄を映し出していた。
居心地の良さに沙耶香は身を委ねた。
「安全運転でお願いね」瑞穂が透に囁く。
「任せておいて。沙耶香さんもね」
ミラー越しに右目でウィンクしながら透が答えた。
カーステレオから流れてくるのは「カノン」
高く低く、緩やかに旋律が結ばれていく。
帰りの旅は楽しいものになりそうだ。
窓の外には空の青と海の蒼。
曇りのない世界がどこまでも広がっていた。
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パーティー会場を後にした瑞穂と沙耶香は名古屋に戻り食事を共にした。その後、沙耶香は瑞穂に連れられ、ある邸宅へと向かった。