NOVEL

noblesse oblige vol.4~仄暗い闇の中~

「ねぇ瑞穂、聞いている?」

瑞穂と呼ばれた女性は退屈そうに返事をした。

「ルスツも好きよ、私。あなたも楽しんだら?」

適当に往なされたと感じたのか、そう言われた女性は頰を膨らませた。

 

瑞穂と呼ばれた女性に目を向ける。

シルバーのウエアは今年のシャネルのものだろう。

軽くウェーブした髪。大きな瞳。

モデルばりの艶やかさだ。

 

そう言う静音も同じように思われるだろう。

切れ長の瞳、艶やかな長い髪。

何より形の良い唇が印象的な風情だ。

 

同じウェスティンの宿泊客だろう。

何度か朝食のときに顔を合わせている。

 

ガタン。

 

音がしてゴンドラが止まる。

停車駅に着いたらしい。

 

案の定、外に出ると少し吹雪いている。

このまま折り返すこともできる。

 

「瑞穂、どうする?結構吹雪いているわ」

「どっちでも良いわよ、私」

 

あとから降りたもう1組も思案している様子だ。

「美希、大丈夫?寒いんじゃないの?」

「そうねぇ、でもせっかくだし。沙耶香は?」

「私は平気だけど」

 

(前が見えないとあぶないわね)

「静音、行くでしょう?」

佳奈は引き返すことなど頭にないらしい。

なんとなく、嫌な予感がして静音は立ち止まった。

 

「どうしたの?」

「私、止めとこうかな」

「えーっ、一人じゃ不安だわ」

佳奈は恨めしげに静音を見つめる。

 

今思えば、この時、引き返せば良かったのだ。

 

その決断を思い返して、静音は一層、深くため息をついた。

 

 

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ルスツリゾートでの事故を思い出すたびに打ちひしがれる静音は、絶望と悔恨に苛まれていた。