「ねぇ瑞穂、聞いている?」
瑞穂と呼ばれた女性は退屈そうに返事をした。
「ルスツも好きよ、私。あなたも楽しんだら?」
適当に往なされたと感じたのか、そう言われた女性は頰を膨らませた。
瑞穂と呼ばれた女性に目を向ける。
シルバーのウエアは今年のシャネルのものだろう。
軽くウェーブした髪。大きな瞳。
モデルばりの艶やかさだ。
そう言う静音も同じように思われるだろう。
切れ長の瞳、艶やかな長い髪。
何より形の良い唇が印象的な風情だ。
同じウェスティンの宿泊客だろう。
何度か朝食のときに顔を合わせている。
ガタン。
音がしてゴンドラが止まる。
停車駅に着いたらしい。
案の定、外に出ると少し吹雪いている。
このまま折り返すこともできる。
「瑞穂、どうする?結構吹雪いているわ」
「どっちでも良いわよ、私」
あとから降りたもう1組も思案している様子だ。
「美希、大丈夫?寒いんじゃないの?」
「そうねぇ、でもせっかくだし。沙耶香は?」
「私は平気だけど」
(前が見えないとあぶないわね)
「静音、行くでしょう?」
佳奈は引き返すことなど頭にないらしい。
なんとなく、嫌な予感がして静音は立ち止まった。
「どうしたの?」
「私、止めとこうかな」
「えーっ、一人じゃ不安だわ」
佳奈は恨めしげに静音を見つめる。
今思えば、この時、引き返せば良かったのだ。
その決断を思い返して、静音は一層、深くため息をついた。
Next:6月23日更新予定
ルスツリゾートでの事故を思い出すたびに打ちひしがれる静音は、絶望と悔恨に苛まれていた。