NOVEL

noblesse oblige vol.4~仄暗い闇の中~

回想 2年前の冬 ルスツ

 

北海道のルスツリゾートへ34日の旅。

気のおけない仲間との旅行は楽しくて、最終日までは何事もなくすぎた。

 

「ね!もう1回ゴンドラ乗らない?」

ランチのコーヒーを飲み干して佳奈が言う。

学生時代の友人3人と北海道へスキー旅行に訪れていた。

 

最終日、飛行機の時間を考えると3時には空港バスに乗らなければならない。

本当ならランチを終えたら、帰り支度する予定だった。

それなのにあと1回、滑りたいと佳奈が言い出したのだ。

 

「吹雪いてきたよ」由紀子は部屋へ戻りたそうにしている。

「えー、せっかく来たのに。ね!もう1回!」佳奈は静音を振り返る。

「そうね、行きましょうか」あと1回くらい、そう思って静音は承諾した。

「私は部屋に戻っているわ。シャワーも浴びたいし」

由紀子が呆れたように返した。

言い出したら聞かない佳奈の性格を知っている静音は諦めたように頷いた。

 

平日でもカフェテリアにはそれなりに人がいる。

ただ悪天候も加わって、ゴンドラに向かう人影も少なくなっているようだ。

 

「イゾラグランでいいよね!」佳奈が無邪気に言う。

一番、長いコースだが初心者でも迂回ルートがあるから人も多い。

「いいわよ。ラスト1本だし」静音も同意する。

高校時代からスキーの経験があり、どのコースも気にはならない。

佳奈も中級レベルだから、1時間もあれば戻れるだろう。

 

6人乗りのゴンドラは他の客と相乗りだ。

いずれも2人組の女性客。

年の頃は同じくらいに思えた。

 

「沙耶香、忘れ物していない?」

「大丈夫。美希こそ大丈夫?」

白いウェアに身をつつんだ沙耶香と呼ばれた女性と目が合った。

透けるように肌も白い。艶やかな黒髪が印象的だ。

軽く会釈して沙耶香は友人の方へ視線を戻した。

静音も軽く会釈して、佳奈の方へ向きを変える。

 

「今度はスイスね。去年のツェルマット良かったもの」

もう1組の女性の会話が耳に入った。