良家の娘として母親に厳しく育てられ、遊ぶ自由すらなかった清美。
そろそろいい歳だからと母からお見合いを持ち掛けられ渋々了承するが、1人目は自身の決断力のなさと母親の傲慢な言動で破談。2人目はモラハラや経歴詐称で清美を騙していたために再び破談。
何もかも嫌になってしまった清美に対して母は叱責の声を上げる。そんな親に嫌気が差した清美は家を出ることに。
行くあてもなくホテル暮らしを始めた清美だったが、息抜きで出かけた先で思いもよらない出会いに恵まれる。
前回:家にも外にも居場所がない vol.8~嫌なことを忘れたい日~
その日は名古屋駅近くにあるバーで飲んでいました。
普段飲まないのでお酒に強いかわかりませんが、今日くらいは1人なんだしいいだろうと半ば焼け気味に飲んでいました。
お酒を一気に飲む機会など今までありませんでしたし、これもいい経験だろうとウイスキーやワインなど様々なお酒を頼んでいました。
するとその姿を見兼ねたのか、誰かが声を掛けてきました。
「失礼、お節介かもしれませんが少々飲み過ぎではありませんか?」
そういって隣に座ってきたのは40代くらいの紳士然とした男性でした。
「ここのお酒は少し度数が高めです。あまり飲み過ぎると体に悪いですよ」
「すいません。お気遣いありがとうございます」
心配してくれるのは嬉しいですが、正直いまは嫌な事を忘れたかったのです。お酒で何もかも忘れられるならそちらのほうがいいと思えるくらいに。
「でも今日は色々お酒を飲んでみたいんです。たまには色々試してみたくて」
「そうなんですか、でしたらこちらのカクテルなどはどうです?」
そう言うと彼はウエイターからメニューを貰い、おすすめのお酒をいくつか教えてくれました。
「ストレートで飲むよりは負担が少ないですし、味のバリエーションも多い」
どうやら彼はここの常連らしく、大抵のメニューなら飲んだことがあるらしい。
「ご親切にありがとうございます」
「いえいえ。もし倒れられでもしたらマスターが困ってしまいますから」
少し冗談気味に彼は言いました。マスターも苦笑いをしていて、なんとも恥ずかしい気持ちです。