NOVEL

家にも外にも居場所がない Vol.9 ~運命の出会い~

「そうなんですか。よろしければ相談に乗りましょうか? 誰かに聞いてもらえば楽になることもあるでしょう?」

心から不安そうに、親身な声で健一さんは語りかけてくれました。ですが彼には関係のないことです。それに初対面の人に話すようなことでもありません。

「ほんと、大丈夫です。そんな深刻なことでもないので」

「はあ……そうですか」

彼は少し悩むそぶりを見せたあと、語り始めました。

 

「でも、なんというんでしょう。見ず知らずの人だから気軽に言えることもあるんじゃないですかね」

「え?」

「ほら、言ってしまえば私たちはこれきり、もう二度と会う事はないじゃないですか? どうせ会わないのなら何を話しても困らないんじゃないですかね?」

言っていることはなんとなくわかります。別にクラスメイトでも会社の取引先でもないのだからわざわざ印象や機嫌を伺う必要はありません。

 

「だからまぁ神社で祈りをささげるみたいな? 誰かに聞き届けてもらうというか、とりあえず言ってみると変わると思うんですよ」

「そう、ですかね?」

「荷物を背負って歩くと疲れるじゃないですか? ここで一度降ろしてみるのもいいと思うんですよ」

なんだかそう言われて、本当にそのような気がしてきました。

 

酔っているからかもしれませんが、私はなんとなく健一さんに今まであったことを話してみました。

親の言いつけで真面目に勉学に励み、習い事を修め、仕事に就き、お見合いに行ったこと。しかし、ことごとく失敗したこと。親にも非があるのにそれを認めないこと。ただひたすらに私を責め立てること。全て嫌になって家を出て来たこと。

今この一時。背負った荷物を降ろしただけで全てが解決したわけではありません。でもなぜでしょう、今凄く、気が楽になったというか、誰かが自分の辛さを知ってくれたことが凄く救いになったというか。

 

「あの、本当に、ごめんなさい」

 

私はいつの間にか泣いてました。辛いから泣いているのか嬉しいから泣いているのかわかりませんが、いま確かに、誰かに自分のことを知って貰えたのという事が嬉しかったのです。

「いいんですよ。それは大変だったでしょう」

「ごめんなさい、ごめんなさい。こんな、急に泣いて」

自分でもわかりませんが涙が止まりません。

 

たくさん飲んだはずなのにいつの間にか酔いは醒めていました。おかげで嫌な事を全て忘れるという当初の目的は失敗です。

ですが、それ以上に大事なことに気付けた気がしました。