「店では話せない話とか外ならできるやろ?やから、リナっちと外で会いたかってん!」
ハンドルを片手に、電子タバコを吸いながらノンちゃんは言う。
酔っていないノンちゃんとちゃんと話すのが初めてで、リナは大人びて見えるその横顔をただ見つめていた。
「ノンちゃんは、レイラさんと何があったんですか?」
リナの方から店では聞けない疑問を投げかける。
「リナっちは、何でレイラから貰った衣装を着れるん?」
質問を質問で返され、リナは苦虫を噛みしめた記憶を呼び起こされながら、大きなため息をついた。
「私が世間知らずの愚か者だから、かなぁ…。
仕事へのプライドもなくて。でもそれに対抗する手段もなくて。だから…悔しいって思い続ける為に、着てます」
「リナっちは強いなぁ…。惚れるわ!」
ノンちゃんは喉の奥で笑い、目を細めていた。
自分は質問に答えたのだから、ノンちゃんも答えてほしいとばかりにリナは黙って前を見据える。
「レイラなぁ、アイツクソ真面目やねん。枕営業なんて絶対せんくせにいつも指名合戦には勝てんし、平気な顔して人の客をクスねていきよる。
キャバにおったらもっと稼げるのに、しょーこママみたいになりたいって【RedROSE】に移籍しやがってさぁ。そっちの客層太いやろ?
そういうとこ。マジで腹立つんよ」
ノンちゃんからの意外過ぎる返答に、リナは…いや、玲子として困惑する。
「ノンの彼なぁ、本当はレイラの客やってん。
解るねん。レイラって彼の本妻タイプの女やから、好きなんやろうなって。
愛人にしたかったのは、レイラ何やろうなぁって…。
でも、レイラはそういうのマジで好かんから、めっちゃ良い客なのに切りよって。
夜の仕事してるくせに、マジでそういう所…嫌いやねん」
―嫌い―
という言葉の裏に、見え隠れする『憧れ』。
「しょーこママみたいになりたい言うたかてな?ママだって、パトロンくらい居るやん。
それが、この業界の常識やん。アホクサって…思うんよ」
食うか食われるかの世界で生きるなら、食い散らかす方になりたい。
リナはそう覚悟を決めたはずなのに、ノンちゃんの話に嫌悪感しか湧かない。
「ノンちゃんは、今の彼の事が好きなんですか?それとも、それはレイラさんへの…」
(当てつけ…なんですか?)
密室であっても、流石に言えない言葉はある。