NOVEL

【錦の女】vol.8 ~交差~

「店では話せない話とか外ならできるやろ?やから、リナっちと外で会いたかってん!」

 

ハンドルを片手に、電子タバコを吸いながらノンちゃんは言う。

 

酔っていないノンちゃんとちゃんと話すのが初めてで、リナは大人びて見えるその横顔をただ見つめていた。

 

「ノンちゃんは、レイラさんと何があったんですか?」

リナの方から店では聞けない疑問を投げかける。

 

「リナっちは、何でレイラから貰った衣装を着れるん?」

質問を質問で返され、リナは苦虫を噛みしめた記憶を呼び起こされながら、大きなため息をついた。

 

「私が世間知らずの愚か者だから、かなぁ…。

仕事へのプライドもなくて。でもそれに対抗する手段もなくて。だから…悔しいって思い続ける為に、着てます」

「リナっちは強いなぁ…。惚れるわ!」

 

ノンちゃんは喉の奥で笑い、目を細めていた。

 

自分は質問に答えたのだから、ノンちゃんも答えてほしいとばかりにリナは黙って前を見据える。

 

「レイラなぁ、アイツクソ真面目やねん。枕営業なんて絶対せんくせにいつも指名合戦には勝てんし、平気な顔して人の客をクスねていきよる。

キャバにおったらもっと稼げるのに、しょーこママみたいになりたいって【RedROSE】に移籍しやがってさぁ。そっちの客層太いやろ?

そういうとこ。マジで腹立つんよ」

 

ノンちゃんからの意外過ぎる返答に、リナは…いや、玲子として困惑する。

 

「ノンの彼なぁ、本当はレイラの客やってん。

解るねん。レイラって彼の本妻タイプの女やから、好きなんやろうなって。

愛人にしたかったのは、レイラ何やろうなぁって…。

でも、レイラはそういうのマジで好かんから、めっちゃ良い客なのに切りよって。

夜の仕事してるくせに、マジでそういう所…嫌いやねん」

 

―嫌い―

 

という言葉の裏に、見え隠れする『憧れ』。

 

「しょーこママみたいになりたい言うたかてな?ママだって、パトロンくらい居るやん。

それが、この業界の常識やん。アホクサって…思うんよ」

 

食うか食われるかの世界で生きるなら、食い散らかす方になりたい。

リナはそう覚悟を決めたはずなのに、ノンちゃんの話に嫌悪感しか湧かない。

 

「ノンちゃんは、今の彼の事が好きなんですか?それとも、それはレイラさんへの…」

(当てつけ…なんですか?)

 

密室であっても、流石に言えない言葉はある。