全く違う道を歩んできた二人の女が、ひと時の幻に酔いしれる。
分け合う重荷に寄り添い、共有した一線の交差点。
夜の仮装を脱ぎ捨てて、日の当たる場所へ…
はじめから読む▶【錦の女】vol.1~「リナ」という名まえ~
ノンちゃんは約束通りに、毎週開店からリナが上がる時間まで【RedROSE】に通って来るようになった。
リナを席に呼び、客が居ない時はママも同席する。
他のホステス仲間には『大丈夫?あの子ホント荒らすから…』等と心配されたが、リナに対してノンちゃんは不思議な存在でしかなく、不快な女ではなかった。
ノンちゃんは来るたびに、高額なシャンパンやワインを何本も空ける。
リナが困るのは、それを飲めと言われる事くらいだったが、ほとんどをノンちゃんが飲んでくれた。客が全く居ない時や待機しているホステスが居る時は、あの子たちにもあげてと振る舞ってくれた。
ノンちゃんが通いだした翌日から、レイラはほぼ毎日同伴してノンちゃんには関わらないよう、あからさまな態度に出た。
あっという間に、ノンちゃんは一週間通い続けて、約束の日を迎えた。
「リナっち。LINE交換するで!」とキラキラにデコレーションされた最新のiPhoneを出された時、リナは渋々自分のスマホを出した。
離婚してから、一度も機種を替えていないリナのスマホは古い。
出会った時に『お嬢』だと言われた事もあり恥ずかしかったが、ノンちゃんは連絡先の交換に応じた事に喜ぶだけだった。
「今度、外で会おうな。そしたらノンが新しいスマホこうたるわ」
「え…!いいですよ、そんなの…」
「ええやん。同じの持とうや。な?どこでも車で迎え行くし!」
ノンちゃんという女と毎夜共に過ごしたが、全然理解はできていない。
ママからは『別に悪い子じゃないわよ。好き嫌いが激しい子供だと思えば、大丈夫だから』というアドバイスを貰ってはいたが、ノンちゃんという女性が解らないままだった。
ノンちゃんのおかげで、働き始めてから見た事ないような給料明細の数字に感謝した。
しかし、店外で会う事には躊躇しかない。
約束を必ず守るというノンちゃんは本当にいつなら空いているのかと、週に何回か連絡をよこした。
昼はレジのパートをしていると伝えると、休みの日はいつだと聞き返してくる。
ほとんど根負けしたように、リナはノンちゃんと会うことになった。
ノンちゃんには自宅から離れた場所を指定して、車で迎えに来てもらったが…
目の前に赤いポルシェが停まった時には、思わず逃げ出したい気持ちになった。
「ノンな、友達おらんねん。こんな性格やしな…ハハハハ」
よく言えば自分の感情に素直。
言い方を替えれば、他人への配慮に欠ける所がある…。
ノンちゃんとはそういう人なんだろうと思う。