リナはそっけなく返事をすると、いつものようにカウンターの中に入り、ドリンクの補充の手伝いを始める。
「お客さんを呼べない分、無料奉仕して店の役に立ちたいんですか?」
レイラの口調はいつも以上に挑発的だ。
無言のまま作業を続けるリナの方に、レイラは身を乗り出してくる。
「リナさんにお渡ししたいものがあるんで、ちょっと良いですか?
みんなが来る前にと思って、リナさんを待っていたんです」
リナの返事を待たずに、レイラは控室の方に歩きだした。
甘いレイラの残り香を感じながら、リナはビール瓶を握っていたが、川内君が
「ここは良いですよ」とにっこりと笑って見せた。
自分なりに居場所を守りたくて、開店準備を手伝うようにしていたが、本来は全てボーイの仕事である。
リナは渋々と控室の方に向かった。
控室の戸は開かれたままで、リナが覗くとブランド名が書かれている大きな袋が3つ。
狭い控室に、無造作に置いてある。
「これ、私はもう着ないのでリナさんにあげようと思って持って来たんです。
全部クリーニングしてあるのでそのまま着てくれて大丈夫ですから」
リナは茫然とただ立ち尽くしていた。
紙袋からはみ出した、彩色豊かな布が眩しい。
「気に入らなかったら捨ててくれてもいいですから。選んで使って下さい。
全部差し上げます」
血の気が引いていくような、憤りを感じる。
「前に言いましたよね?迷惑をかけたかって。
はっきり言って、迷惑なんです。夜の仕事を舐めてる人。時給が高いから、ママが優しいから、そんな理由で居座られるの、はっきり言って迷惑なんですよ。
いつまでママの客に取り付いていくつもりですか?
ボーイでもできる仕事をやるんじゃなくて、ホステスの仕事をしてください。
私みたいな新参者のガキに言われるのは癪でしょうけど、私はこの仕事に誇りを持ってます。
はっきり言って、あなたみたいな人、嫌いなんです」
反論できる隙は微塵もなかった。
レイラの言う通りで、まさにぐうの音も出ない。
だから・・・。
「ありがとう…レイラちゃん。昨日は、ごめんなさい」
リナとしてのプライドにしがみつく手を離し、玲子として頭を下げた。
奈緒と裕也の笑顔を浮かべながら、リナは頭を下げ続けた。