NOVEL

【錦の女】 vol.3 ~レッドアイ~

今日は客の入りが遅かったが、20時を過ぎた頃から数名の客が入店してきた。

その殆どが、お気に入りのホステス目当てということもあり、リナの待機は21時まで続いた。

待機でも時給が下がることはない。

しかし、店に貢献できていない事には負い目を感じる。

 

リナが元夫に買ってもらった、PRADAの腕時計に目を落とす。

離婚する随分前の誕生日に買ってもらったが、その時は家事に不便だからと言う理由で使わなかった。

「本当に、気の利かない男!」

心の中で糾弾したが、皮肉なもので今は重宝している。

 

どんなにお金がなくても、夜の女として煌びやかな世界に立つためには、それなりに見栄を張る必要がある。

 

そんな時に、すっかり忘れていたブランドの時計は丁度良かった為、【RedROSE】に入店してから使い続けている。

 

何度も時計に視線を落とし、秒針がやたら遅く進んでいるように感じられた時だった。

ボーイの川内君が顔を出した。

 

「リナさん。お願いします」

 

やっと席につける!

ハンカチなどを入れているポーチに手を掛けると川内君が耳に顔を寄せて、小声で連絡事項を伝えて来た。

「今、ママが席を離れられなくて!

井上様なんですが。先にいらしていた中島様のお席に合流されまして、その、レイラさんのお席なんです。お願いします」

 

なるほど…。そういう事ね…。

リナは勝手に納得した。

 

井上は【RedROSE】の常連客の社長である。

特定の贔屓は特になく、誰にでも好きなように飲み食いを進めてくれる気の良い客ではあるし、色んな客を連れてくる。

大体が社長仲間ばかりで、井上がいなくても会社関連の2次会に使ってくれるような、筋の良い顧客になってくれる。

 

言わば店にとっての太い客であった。

 

勿論リナとも仲良く話してくれる。

 

しかし、ここ最近連れてくるようになった中島と居る時は、いつもと感じが変わるのだ。

中島は井上より年が若い。

しかも、関連企業展開などや不動産ビジネスをしている本物の億万長者だと井上は言う。

 

趣味の延長のように芸能が好きで、落ち目の芸能人やアイドルの卵を支援し、イベントや映画などに協賛していると自慢話をよくする。

身に着けているものは、それと分かるブランド物ばかりで、常に最新のiPhoneを片手に芸能人との写メを見せてくる。