全てを見透かされている?この男には何も通用しないという事?それとも、不敗の観察眼が曇っているという事なのか?
莉子は困惑した表情を見せている自覚はあるのに、全く制御できないでいた。
―やだ、どうしよう、口が開いている。馬鹿な女みたいな表情に見られる!!―
昭人の手がゆっくりと、莉子の方に伸びてくる。
「そっちの方が良いですよ。」
そういいながら、莉子の肩に優しく手をのせた。
「…え?」
「僕は、莉子さんが…隠している素顔に興味があります。」
こんなの簡単すぎる。耳の奥で、そう叫ぶ誰かの声が聞こえる。
口元が全く読めない。
「なぁんてね…そういう男性が多いんでしょ?」
砕けた口調で、悪戯っぽく笑って見せる昭人の表情が、憎らしくも可愛く見えた。
「どういうことですか?小枝子から…?」
「いえ、モテるんだろうなと思って。莉子さんは。」
こんな所で、駆け引きに持ち込まれるとは思わなかった。
がしかし、相手の思惑が読めない状態では、ジャブを打つ勇気も出なかった。
「モテるって、どういうことを言うのか…いまいち、解らないので。相手の好意の裏側を、私は見てしまうから。」
素直な気持ちが口にでる。
相手から欲してくる条件を素直に飲み込めるのか、その対価は貰えるのかを読み解くのが、莉子の信条だ。
「見えるって所は、ビジネスマンに向いています。でも、きっと今のままだと、これは差別している訳ではなく、偏見でもなく、あなたは弱いし利用される女性になりそうで、僕は起業をあなたに勧めたくないです。」
仕掛けられた?
昭人から仕掛けられた罠が、莉子には新鮮で、やはり口元に目が行く。
その時だった、昭人の口元の左側が少しだけ動いた。
その日は、互いに何かあったら連絡が取りやすいようにと、LINEの交換をして別れた。
別れ際に、昭人が言った言葉が忘れられない。
「今日のネイル可愛いですね。最新の流行りですか?」
「いえ…これは、私が好きで試しにやったもので…」
「似合ってますよ。」