全力で踊りきった後
「ありがとうございました!」
と誰よりも大きな声で挨拶する健太の表情はやりきった満足そうな様子だった。
オーディションと審査が終わると、親子がスタジオに集められた。
そして直人先生が後ろの列で踊る子から順に名前を呼んでいく。
子供達はワクワクしている様子だが、ママ達は命懸けのような表情だった。
私自身は
(健太が楽しく踊れればポジションなんてどこでもいいわ)
と正直思っていた。
それでもなかなか健太の名前が呼ばれず、私の気持ちはソワソワし出した。
千奈美さんの娘の佳奈ちゃんと健太が最終的に残り、直人先生がセンターの発表をする。
「今回の発表会のセンターは健太くんで行こうと思います。健太くん!頑張れるかな?」
直人先生が健太に声を掛けると、健太は目を輝かせて返事をした。
「ママ!やったー!」
と健気に喜ぶ健太の横で、佳奈ちゃんは
「佳奈が真ん中がいい!真ん中じゃなきゃ嫌なの!」
とごねてしまっていた。
周りもこれには困惑し佳奈ちゃんに譲るのか・・・という雰囲気がママ達に流れたのを察して直人先生がみんなに話し始めた。
「皆さんお疲れ様でした!オーディション形式っていうのは幼稚園のみんなに向けては少し残酷ではありますが、みんなが社会に出てからは学業、スポーツ、仕事、プライベートでもいろいろな場面で順位が付けられます。その順位が今の自分の現実であり、これに向き合って努力することがみんなの成長に繋がります。特に佳奈ちゃんはとっても悔しそうだけど悔しいってことは頑張った証拠です。センターじゃなくても自分のポジションで自分らしく輝けるっていう事がどこにいっても大切です」
「我が子を輝かせたい!そんなお気持ちから悔しさを感じている親御さんも中にはいらっしゃると思います。けれどオーディションが全てではありません。最終目標は1つのチームで踊り切ることです。ここから衣装のご準備など親御様のご協力が必要となります。是非ママ達もワンチームでお子様のサポートをお願いいたします」
佳奈ちゃんも直人先生の話で、少し落ち着いてきた様子だった。
「皆さんで力を合わせて素敵なステージになるよう頑張りましょう!」
と千奈美さんがママ達に声をかけるとそれを見た直人先生も安心した様子だった。
健太がセンターというのは努力が報われてとても嬉しいと同時に、ママ友達との関係に不安を感じる私にとって複雑な結果だった。
けれど千奈美さんの一言を聞いてうまくやっていけるかなぁと少し安心した。
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オーディション後、ママ友同士の関係は特にギクシャクすることもなく続いていた。そんなある日、結衣は珍しくママ友の小百合からランチのお誘いを受ける。