夫・裕司が少しだけ変わる気配を見せた、その頃。
妻・加奈恵と息子・春樹は実家に身を寄せて過ごしていた。
家族に待っている運命は一体・・・!?
裕司が少しだけ変わる気配を見せた、その頃。
加奈恵は、今も実家に身を寄せて過ごしていた。もちろん春樹も一緒だ。
春樹はあれ以来、笑顔がとても増えた。のびのびと過ごしているという言葉がふさわしいように思える。そして、それは本来中学生ならそうあるべきと思える姿だった。
(春樹が元気なら、それが一番よね)
加奈恵はそう思った。ほんの少し、目頭が熱くなった。
***
「じゃあ、行ってきます」
「いってらっしゃい」
学生服に着替えた春樹が、鞄とお弁当を持って家を出て行く。加奈恵は手を振ってそれを見送った。
「春樹、元気そうで何よりね」
奥から出てきた加奈恵の母が、本当に嬉しそうに言って微笑んだ。「うん、そうね。本当に何より」と返事をした加奈恵は、うんと伸びをして朝食の後片付けをするためにキッチンに立った。
すると、こたつに入ろうとした母親が、少しだけ何か考えるように動きを止めると、「ねえ、加奈恵」と言葉を発した。
「なに? お母さん」
「……私はね、加奈恵」
母親は神妙な顔をして加奈恵の方を向いていた。加奈恵はきょとんとして、何か話があるのかしらと、キッチンに立ったまま食器を洗わずに母を見ていた。
「私は、例えあなたが離婚しても、何をしても、あなたと春樹さえ元気なら、それでいいと思っているからね」
「……!」
「ただ、それだけよ。それに、お父さんもそう思っているから」
「……うん」
目の前の母と、そして父のことを思い、加奈恵は今度こそ泣きそうになった。