NOVEL

女の顔に化粧をするとvol.8 ~黙秘~

次の日、部下の島田と面談することになった真鍋加奈恵。

話を進めていくうちに真鍋は島田の予想外の反応にたじろいでしまう。

 


前回▶女の顔に化粧をするとvol.7 ~忠告~

はじめから読む▶女の顔に化粧をするとvol.1 ~思いがけない知らせ~

 

 

 

次の日、朝礼が終わったタイミングで島田が話しかけてきた。特に神妙な面持ちというわけではなかったが、少しの緊張は見て取れた。

 

「資料の添削ありがとうございました!あの、お話って…」

「少し会議室で話しましょう」

 

薄暗い会議室の電気をつける。木製の机が中央に置かれ、奥にはホワイトボードが設置されている。会議室に入り、椅子に座ることなく、山下から受け取った写真を島田に見せた。それまで笑顔を張り付けていた顔が、急速に強張っていくのが分かった。

 

「誰が…これを…」

「それは言えません。この方は、先方の清水さんよね」

 

自分の中で昂る感情を抑え、なるべく穏やかに質問できるように努める。ここで声を荒げてしまうと、有益なことを何も引き出すことができない。気が遠くなるような一瞬が流れる。自分と島田がいるこの空間を、外から見ているような奇妙な感覚がある。口の中が乾いてくる。次の一声の発し方を、危うく忘れてしまいそうだった。

 

「それで、なんなんですか?」

「え…?」

 

島田からの疑問を理解することができなかった。

 

「清水さんと寝たからって、なんだっていうんですか?それが課長のミスの原因になってるんじゃないかって?」

「落ち着いて、島田さん」

「うるさい!思い上がらないでくださいよ…!」

 

全く見たことのない島田の様子に押され、たじろいでしまった。メンバーのことはちゃんと見てきたつもりだったが、こんなに溜まりきるまで私は気づくことができなかった。管理職として失格だ。

 

「ごめんなさい。私に何か不足している部分があったら、いつでも言って」

「いつも相談してるのに、私たちを舐めた態度で対応しないのは課長じゃないですか」

 

何も言うことができなかった。山下課長からも散々釘を刺されていた内容だ。感情は横に置いて、完全に客観視することが重要であると考えていたからだ。だが、結果的に、部下のメンバーを置いていってしまったようだ。