NOVEL

女の顔に化粧をするとvol.3 ~万難を排して~

先ほどよりも長い沈黙。この沈黙の間は、こちらからは下手に喋らないほうが、良い結果になりやすい。しばらくすると、やれやれといった様子で話し始めた。

 

「真鍋さん。だから、難しいんだって…」

「私は、至って正当な手順で、ただすり合わせを行いたいだけです。上席の方もご同席いただき、打ち合わせをさせていただきたく存じます」

 

頭を掻く音がする。諦めたかのようなため息が聞こえ、引き続き、気だるそうに話し始めた。

 

「来週の水曜、午後一からはどうですか?」

 

 

 

アルミ製のドアノブに手をかけて入った会議室には、ガラス板が張られた木製の机と、その机とサイズ感の合わない皮張りのソファが置かれた部屋に通された。時間を感じさせる独特の会議室の匂いと事務の方が出して下さったお茶の香りが混ざる。

 

少しすると、扉の向こうに微かな人の気配を感じ、続いてドアをノックする音が聞こえた。

 

「失礼致します。いやぁ、お待たせしてしまってすみません!」

 

最初に入ってきたのは米田だ。仕事用の笑みを貼りつけてはいるが、細い目は笑っていない。目尻に刻まれた皺は、無理やり瞼を上下させることで出来たのだろう。

 

「お世話になっております!お忙しい中すみません」

 

私もなるべく愛嬌を振りまく。私の目尻にもあんな皺が刻まれていくのだろうか。

 

「いえいえ。こちらこそわざわざ出向いてもらっちゃって。あ、こちらが弊社プロデューサーの清水です」

 

清水と紹介された男は、米田より頭一つ分ほど身長が高く、細身の男性だった。見た目からは40代といったところだろうか。

 

「お世話になってます。清水です」