NOVEL

「Lady, Bloody Mary」~女の嫉妬~ vol.9

 

「おはようございます、三宮さん」

「あら、お二人さん、もうお仕事なの?大変ねぇ」

 

目の下のクマを隠すため濃いめのメイクをしたリノはにこっと微笑むと、エルメスのミニバックを持ち直しつつ、こう告げた。

 

「もしまた調子が悪くなったら、お手伝いはできるからいつでも言ってね、小竹さん、それとねっ?坂間くん」

 

と意味ありげな顔をすると通り過ぎていった。その声色に紗夜ははじめて、リノの飽くなき欲を感じ取った。

 

「さ、いこう」

 

と軽く坂間は背中に軽く手のひらを支え、紗夜を支えた。

 

「うん、行きましょう」

 

紗夜は強く頷くと、彼と歩き出した。

 

 

プロジェクトは2人の手腕もあり、順調に進みチケットも販売開始、無事に開催へと進んでいた。今日は前祝いで紗夜と坂間はJRセントラルタワーズの最上階にあるフレンチレストランにやってきていた。

 

密かに紗夜の誕生日が近かったので、坂間が準備していたらしい。突然の豪華なディナーに目を丸くする紗夜。

 

『乾杯』

 

チンと赤ワインのグラスを、前菜と共に喉に流し込めば、不思議と笑みが浮かんでくる。

 

「坂間くん、やっぱり凄いね。一緒に仕事してて同世代で、ここまでちゃんとテキパキできる人は初めて見たよ」

 

しみじみと紗夜はそう言った。それは煽(おだ)てではなく本音だった。いつしか坂間と仕事をするにつれ、それまで仕事は”できていた”つもりではあったものの、デキる人のスキルと処理能力は全く違うことを思い知った。

 

「俺こそ。小竹さんがフォローしてくれるからとてもスムーズに事業を進められて本当に良かったよ」

 

季節のサラダとスープが運び込まれる。口にしながら、2人は仕事以外のことを色々話した。

もちろんそれまでも、色々会話はしたがどちらかというと仕事中心だったので、こういう人として話したことはなかった、あのクリスマスの時以外は。

季節は巡ってあっという間にもう春になる、時は確かに刻まれているのだ。

食事は進み、ワインを飲む手も止まらない。