NOVEL

きっとこの先は。vol.9~昔のように、自然に~

 

鈴木との話し合いの中で、私たちの料亭が主体となって新人研修を行うこととなった。但し、組合への協力であり所属ではないことや、もちろん一回ずつに全て出席となると経済的にも人的にもコストがかかり過ぎるため、動画を作って配布するという形に収まった。

 

また、一つの基準を作り組合内でのコストを削減するために動画をつくるが、イレギュラーな対応に関しては各店舗の方針に合わせて進めてよい旨の通知を出した。そんなことも出来ていなかったのかと少し呆れたが、出来たばかりの組織ではよくあることだと後で聞いた。

 

結果的に、私たちは組合の監修のような立場となることについて、示しがつかないのではないかと思ったが、実際に経営上の安定感が高かったことから、何とか面目を保つことはできているようだ。

 

「ありがとうございます」

 

ある日の打ち合わせの後、桜井から声をかけられた。

「何か御礼をされるようなことをしましたでしょうか…?」

「いえ、漸くあの人、息が出来そうな気がしましたので」

内容がよくわからず少し考えていると、桜井は上品に、しかし無邪気な笑顔を浮かべながら少し笑った。

 

「桜井さんは、彼とご結婚されているんですか?」

「あ、いえいえ。私には別に旦那がおります。彼とは大学のサークルの同期でね。面白くてついてきちゃった」

意表をつかれた答えに、思わず目が丸くなった。目が丸くなったという表現は、まさに今こそ相応しいのだと確信するほどに、目全体に力が入り見開く。

「うふふ」

 

最初に桜井に会ったときの感想とは、全く違ったものになっていた。目の前の桜井は上品な気配を纏ってはいるが、それでいて目に映っているもの全てを純粋に受け止めて、精一杯楽しみ尽くしたいという、欲望にも似ているような無垢さを持っていた。

 

「ふふ、貴女とは良いお友達になれそうな気がします」

「あら、私は最初からそう思っていましたよ」

軽快に笑うその声に、私も思わず笑みがこぼれた。